今年の年頭にピボットというベンチャービジネス上のコンセプトについてエントリーしましたが、もう一度詳しく書いてみようと思います。
ピボットとは日本語では転回、と訳します。踵を返す、という動きがそれです。ボクシングでは相手にくるりと背中を向けてから、踵を返して攻撃する方法をピボットターンと呼んで反則としています。トリッキーでありフェアではないという観点ですが、 ルール無視であれば、かなり効果的なテクニックです。 ベンチャーにおけるピボットとは、事業でなかなか芽がでないときに、それまでやっていたビジネスモデルを捨て去り、全く異なる新しい領域に一気に踏み出すことです。
例えば、オリエンタルラジオという芸人コンビは、時流に乗っていったんブレイクしたものの、人気凋落の兆しが見えていました。しかし、頭の良い二人は、一人はチャラ男と言われる軽いキャラで、もう一人は頭のいい物知りタレントというキャラで、それぞれの居 場所を見つけて再ブレイクを果たしました。これも一種のピボットです(笑)。うまくいかない、でもがんばる。それは日本人的には美徳であるかもしれませんが、うまくいかないことには見切りをつけて、新しいアイデアを探し、見つかったら一気に方向転換を図る。それが成功の秘訣としてシリコンバレーでは注目されているのです。
ピボットの実例をいくつか挙げましょう。
DeNAのケースではオークション運営→モバイルゲームサービス運営、mixiの場合は転職情報サイト→ソーシャルネットワークサービス運営と、同じITまたはネットサービスではあっても、全く関係のないビジネスモデルへの転回です。
世界最速とも言われる成長を続けているソーシャルゲーム会社のジンガ は創業わずか4年で上場を果たしています。その創業者兼CEOの マーク・ピンカスは大学卒業後いくつかの会社を転々としたのち、ベンチャー企業を立ち上げたものの追い出され、悶々とした挙げ句にチャレンジしたのがジンガです。彼が取り組んだ複数の仕事には、あまり関連性がなく、前述のDeNAやmixiと同じく、それまで やっていたビジネスモデルへの執着はあまりないのが特徴です。
これに対して、基本的には同じ領域内でのピボットもまた少なくありません。例えば、Facebookの初代社長として、VC交渉やさまざまな事業提携に尽力したことで知られるシリアルアントレプレナーのショーン・パーカーは、まずナップスターという音楽共有サイトを立ち上げましたが、非合法であるとのそしりを受けて断念し、次にPlaxoというアドレス帳の共有サイトを作ります。しかし、ほどなくしてVCとの確執が起こり、ショーンはPlaxoを追い出されてしまいます。 その後ショーンはFriendsterのメンターとして成長の後押しに関わりますが、「大学生のための”排他的”ソーシャルネットワーク」というハイコンセプトを持つFacebookに目を付け、マーク・ザッカーバーグの信頼を得た上で初代社長の座につくのです。
つまり、ショーン・パーカーは情報の共有サービスを作る天賦の才を持っており、その分野に特化した起業だけに関わってきています。ナップスターは音楽の共有であり、Plaxoは連絡先の共有、FriendsterとFacebookは人間関係の共有です。そして現在ショー ンが携わっているSpotify(http://www.spotify.com/)で、再び音楽の共有に取り組んでいます。この試みはナップスターから非合法性を巧みに取り除いたサービスとも言えるわけで、ショーンとしては原点回帰と言えるかもしれません。
ちなみにSpotifyは今年中に日本上陸しそうです。ぜひ注目してください。
ー 小川浩