愛と幻想のノマド論 食いっぱぐれない生き方のぶっちゃけ話

常見 陽平

最初に言っておきます。これは就職氷河期、大企業での社畜時代など、人生の紆余曲折を経て、なんとか生きているアラフォー男子のエッセイです。

ネタバレ、ステマになるので詳しくは書きませんが、ある番組で「若者の雇用」について議論しました。口下手な私ですが、頑張りました。その際に、「ノマド」が話題になりました。

ノマド。これに対して期待と、曖昧な不安を抱いております。


私、ノマド批判論者だと思われているのですが、違います。むしろ期待しています。ただ、現状の盛り上がり方、取り組み方が残念だと感じています。これが若者の希望難民を生み出すだけではないかと危惧しています。

新しいワークスタイルは、いつの時代も論じられます。私は就職氷河期世代なわけですが、当時も「日本の大企業はもうダメだ」「新しい働き方が必要」という話は盛り上がりました。その時代、学生起業なども盛り上がりました。00年代になる頃にもフリーランスブームがありました。03年頃にはフリーの業務請負人であるインディペンデントコンストラクターという働き方が注目を集めました。ソーシャルネットワークでゆるくつながりコラボするという流れが出てきたのも00年代半ばです。他にも働き方、もっと言うと生き方に関する新スタイルは何度も登場しては、定着したり、消えたりしました。先行きが不透明な時代になると、新しいやり方を模索するのは人間がいつも取り組むことなのです。

もちろん、こんな反論もあるでしょう。

「今と昔では前提が違う」

そうです。これらを理解する上では前提となる企業活動の変化、雇用形態の変化、ITなどのテクノロジーの変化などには注目するべきでしょう。

一方、ビジネスの本質はあまり変わりません。価値の創造と提供、それによる利益の獲得という点は変わりません。貨幣経済から承認経済へのシフトという話がありますが、現実としてお金がなければダメです。

ノマド礼賛の論拠として企業の閉塞感があげられます。気持ちはよくわかるのですが、ノマドはそれに対して劇的なソリューションになるとは限りません。まとめる人や場というのは必要になるわけです。そもそも、今時、閉塞感がなくイノベーティブな組織もあるわけです。

ずっと言い続けていますが現状の牧歌的なノマド礼賛には、87年にリクルートがフリーターという言葉をつくり、煽り、結果として大量の希望難民を生み出したことと同じ空気を感じます。フォローするとリクルートも当初は組織にとらわれず、自分の夢に向かってチャレンジする生き方を応援するために、良かれと思って作った言葉のはずなのですが。

このノマドですが、この意味自体が実に曖昧です。ノマド礼賛論者の中でも揃ってはいないでしょう。

個人的には場所、所属組織、時間、この3つの自由によって成立すると解釈しています。ただし、この3つには段階があり、この掛け算によってノマド度が変わります。組織に所属しつつも、スタバで、MacBookAirを叩いてずっと仕事をしている人などもノマド呼ばわりされているのも現実なのですが。

ノマド批判論者ではないと言いつつ、批判的な意見を書きまくってきましたが、実は私も俗に言うノマドワーカーです。いつも、日本のどこかにいて、移動中や喫茶店やホテルで仕事をして、様々な人とつながりって仕事をしています。大企業を辞めて約3年、なんとかやっています。
ここで、ノマドで食べていく方法の真実について、私は10のルールに気づきました。成功哲学でも何でもなく、アラフォー男子の処世術として聞き流してください。

1.「断らない力」
ガムシャラに働くことで、経験はたまり、だんだん自分の向き不向きがわかってきますし、自分に合った仕事がくるようになります。

2.「顧客」「仕事」を確保する
基本です。さらに、その顧客が期待している以上の仕事の成果をお届けしましょう。「期待している以上」というのがポイントで、世の中全体で「最高」でなくても構わないのです(もちろん、向上するための努力をするのですが)。

3.「新規営業」はしない
新規顧客の獲得には既存顧客を獲得する数倍のパワーがかかります。頼まれた仕事を中心に応えていく方が、気持よく仕事ができます。

4.セルフブランディングなんてしない
俗に言うセルフブランディングはほとんどが無駄です。というか、メソッドが広がりすぎて、やっても見破られます。自分のブランド力を決めるのは、結局、自分の仕事です。そのプロセスと結果の質にこだわる、と。

5.「つながり」に依存しない
異業種交流会やソーシャルメディアでのつながりは裏切ります。「いいね!」ボタンを教えてくれた人は意外に助けてくれません。家族と親友と師匠、これが最強です。

6.得意なことをやる
苦手なことはやめましょう。強みを磨いていくこと、新たに作っていくことが大事です。あと、強みはいくつかを掛け算するとオリジナルなものになりますね。

7.自然に変化、進化する
時代の変化を感じ取りつつ、自分も変化すると。変化を目的化してはいけないのですけどね。

8.面白い仕事をする
「あの人(と)の仕事は面白い」と言われるように努力しないと、次の仕事はきません。

9.「武器」に投資する
PCやオフィス用品など仕事道具に投資するということですね。世間の評判よりも、自分にフィットするものでいいでしょう。

10.謙虚でいること
一流と超一流の違いは謙虚かどうかです。謙虚に人の話を聞くこと、努力することは大事です。自分という存在が大したことがないことは、自分自身が一番知っていないといけません。

特に企業から独立した人は、何かとコンプレックスを抱えがちです。そりゃそうです。「結局、勤めていた会社で成果出せなかったんじゃん」と周りから見られたり、自分でもそう思ってしまったりするものです。

私もこれまで勤めていた大企業の社員から面と向かって「お前は大したことがなかった」「○○の方がすごい」みたいな話をされたことがありました。そういう時こそ、謙虚に拳を握り、ぐっと堪えるのです。今からそいつをこれから一緒に殴りにいきたい、そんな衝動をおさえ、踏まれて強くなっていくのです。そして、幸せこそが最大の復讐です。

最後はとんでもない自己啓発メッセージになってしまいました。

ノマドは楽ではないです。今後、社会的にどうサポートするか議論は必要ですが、牧歌的なノマド推しにはひいた視点も必要です。地上の楽園などないと思うと気楽です。

氷河期時代の就活を体験し、厨二病的に「”オトナ社会”に取り込まれるものか」と思いつつ社畜になり、残業、接待、希望外の異動、出向、転勤、過労でダウンなどサラリーマンらしいことをひと通り経験し、現在、ノマド的な生き方をしている私のぶっちゃけ話でした。

就活の栞