700MHz帯へのITS居座りは許されない

山田 肇

ソフトバンクは900MHz帯で基地局からの15MHzと端末からの15MHzの計30MHzを取得した。一方、意見募集中の700MHz帯では3社それぞれに12MHz×2が与えられる。高速化が制限される、混雑がひどくなる、などの悪影響が予測されるのに、なぜ15でなく12なのだろうか。

原因は700MHz帯に居座るITSである。ITSは755から765を利用し、下側に7MHz、上側に8MHzのガードバンドを設ける計画である。このように、ITSはど真ん中の25MHzをふさいでいる。

700MHz帯をITSに利用すると決定したのは、原口タスクフォース『ワイヤレスブロードバンド実現のための周波数検討ワーキンググループ』である。「見通し外の車両との事故を防止するため、ITSについて、700MHz帯の周波数割当案の検討状況を踏まえつつ、できるだけ早期に割当てを行うべきである」というのが当時の結論である。しかしこのITSには二つの大きな問題があり、割当を中止し、移動通信の枠を拡大すべきである。


問題の第一は、見通し外車両との事故防止という効果が得られにくいこと。IT戦略本部に総務省から提出された資料には、5.8GHz帯では交差点に50m程度まで接近しないと通信できないのに対して、700MHz帯なら180m程度で通信可能になるので、出会い頭衝突防止の効果が高いと説明されている。

これは両方の車両がITSを装備していた場合に限られ、片方だけが装備したときには役に立たない。よって、普及率が50%で防止できるのは05×0.5=25%の事故に、普及率70%でも49%に限られる。警察庁の統計では、2011年中の交通事故69万件のうち18万件が出合い頭衝突である。したがって期待される効果は、普及率が50%でおよそ5万件ということになる。一方、この10年間で、従来施策だけで(このITSなしに)出会い頭衝突は6万件以上減少してきている。

ETCでは効用は普及率に比例する(装備した車両はただちにETCが利用できる)。これに対して、このITSでは効用は普及率の二乗に比例し、ETCよりも減じられるため、運転者にとって魅力は少なく普及に弾みが期待できない。

第二の問題は、諸外国で700MHz帯をITSに利用する計画がないこと。米国と欧州では5GHzが用いられている。アジア太平洋地域での周波数配分の調和を目的に組織されているAPT Wireless Groupでも、議論の対象になっていない。このまま強行してもこのITSは国内でしか利用できない、したがって輸出できないガラパゴス技術となることが確定している。

効果が薄く普及が期待できず、ガラパゴス化が確実なITSへの割当は、民主党政権下で一度決定したことではあるが、電波を真に有効に利用するために見直すべきである。

山田肇 –東洋大学経済学部-