ソーシャルゲーム規制、コチラの業界側からの助言 --- 木曽 崇

アゴラ編集部

ソーシャルゲーム規制に関して、私は先の投稿で

当面の論点としては、1)ソーシャルゲームが風適法の定める「本来の用途以外の用途として射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができるもの」にあたるかどうか、2)風適法の法の目的から考えて、それが無店舗で提供された場合も規制の範疇とすべきかどうか、の2点に絞られる

と述べました。本日の投稿では、上記2点をもう少し深くエグってみたいと思います。


まずは論点1となる「ソーシャルゲームが風適法の定める『本来の用途以外の用途として射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができるもの』にあたるかどうか」について。まぁ、これは正直「あたる」というのが妥当な判断でしょう。今、問題となっているRMT行為そのものがソーシャルゲームが「本来の用途以外の用途」として利用されてしまっている代表例なわけで、抗弁者側のポジションとしてもこの点を否定するのはなかなかシンドい作業になるでしょう。

次に論点2として「風適法の法の目的から考えて、それが無店舗で提供された場合も規制の範疇とすべきかどうか」について。先の投稿で述べたとおり、この点に関しては、風適法で店舗型営業のみを規制対象としていた性風俗特殊営業の規定が、無店舗型営業にまで拡大されたという過去の事例があります。それを今回の議論に延長するならば、それこそ前回の投稿でご紹介したような「そもそも店舗営業をしていなくても遊興や風俗の類の娯楽の提供を業としていれば風営法の枠内で考えていくべき」という主張に繋がるのは非常に自然なこと。この点においても抗弁者となるソーシャルゲーム業界側としては、なかなか難しい展開が予想されるわけです。

このような最初から「分の悪い」戦いの中でソーシャルゲーム業界側が取れる唯一ともいえる有効な対抗手段が「業界側で自主規制をするから公的規制は勘弁して」という主張。先月、GREEやDeNAなどソーシャルゲームの大手プラットフォーム事業者が中心となって連絡協議会を発足させました。これはまさに今、行政側で起こりつつある公的規制の動きに対しての対抗措置といったところでしょう。

ただ私としては「業界側で自主規制をするから公的規制は勘弁して」という抗弁が、いつまで通用するかなぁというのが正直な気持ち。今問題となっているRMT行為を技術的に封じることが出来るのならば話は別ですが、「イタチごっこ」的な対応に始終せざるを得ない限りにおいて、業界側の「自主規制」は時間稼ぎにはなれど最終的な公的規制の回避策にはなりえないでしょう。特に、ここまで大きく成長したソーシャルゲーム業界が、さらに大きな発展を目指しているならばなおさら無理。業界が拡大すればするほど、そして技術的に封じることのできないRMT行為が存在し続ける限り、いつかは臨界点に達し公的規制の動きに移行するのは避けられないです。

だとするならば、業界としてはどのような「着地点」を目指すべきか。私として提案できるのは、今目指している自主規制の方向性をより一層推進するのは大前提として、それと並行してソーシャルゲームを規定する法律の制定を警察庁以外の官庁に中長期で働きかけましょうということ。出来れば経産省or総務省の管轄下で、より緩やかな「産業育成法」的なスタンスでの制定が望ましいと思います。

山本一郎氏のように、業界に身を置きながらも「風適法の適用もやむなし」とすでに諦めムードの方も居るようですが、現行で風適法関連産業に身を置いている人間の立場からすれば「避けられるものならば全力で回避すべき」というのが、ソーシャルゲーム業界に対するささやかながらの助言といえます。警察庁(もしくは国家公安委員会)という組織は、行政組織というよりは犯罪者や違法行為を取締まる法執行機関という性格が色濃い組織です。他の官庁は自らの所管する業界の「健全な発展と育成」を旨として動くものですが、警察組織は「社会秩序の維持」を大前提として動きます。

業界の拡大なぞは問題外、基本的には抑制方向で規制をかけてくるのが常ですので、そういった組織の管轄下で産業として生きてゆくということは、それはそれは大変なことなのですよ。それこそアーケードゲーム業界や遊技業界、ナイトクラブ業界など関連産業が何とか風適法の管轄から外れ、独自業法の制定をあの手この手で画策をしている時に、わざわざ積極的にその仲間として自ら名乗りを上げる必要はないかと。

一方で、「そもそもIT業界は自由闊達な風土の中で育ってきたものであり、公的規制には向かない業界…云々」という伝統的な意見は尊重しますが、アナーキズムを貫いて抵抗に抵抗を重ねた挙句、最も望まれない制度下に身を置くことになってしまえば元も子もない。他の官庁に所管がキッチリと決まり、それを規制する法律が存在するのであれば、警察が積極的に風適法の適用に踏み込むことはないかと思います。最悪、そういった方向に事が動いた時に備えて、一方で現実的な選択肢を準備しておいて損はありません。コチラ側に身を置く人間として、非常に老婆心的な助言だと思いますが、ぜひご一考下さい。

木曽 崇
国際カジノ研究所 所長