別に消費税で派遣は増えないし、大企業は優遇されない --- 城 繁幸

アゴラ編集部

消費税引き上げを巡って、様々な議論が行われている。
そこで今回は新社会人向けに、ごく基本的な消費税の話をしたいと思う。

たまに「消費税を上げれば、正社員を切って派遣労働者への置き換えが進む」という不思議なことをおっしゃる方もおられるが、それは間違いだ。


仮に、100円のコストで100円の茶碗を売っているA社とB社があったとしよう(両方とも利益ゼロ)。
消費税率10%として、A社はコストの100%に消費税を払っていて控除可能、B社は消費税がまったくかかっていないものとする。

1.仕入先に払う消費税 2.消費者から預かる消費税 3.企業が納める消費税(2-1)

A社:10円          10円          0円
B社: 0円          10円          10円

最終的には、両社とも手元に残る金額は変わらない(ともに0円)。
そもそもの大前提として、消費税を負担するのはあくまでも最終的な消費者であり、企業は負担しない。上記の図は、消費者から預かった消費税をどの企業が国に納付するか、という違いを示しているに過ぎない。

というわけで「派遣社員にすれば消費税分を控除できるから」という理由で派遣に置き換えるおバカな企業なんてこの世に存在しない。

ついでなので、やはりよくある誤解の一つ“輸出戻し税”についても説明しておこう。
消費税には輸出戻し税という名の大企業向け還付金があるから、消費税引き上げは大企業の陰謀である!」と、やはり不思議なことを言う人達がいる。

A社が海外に茶碗を輸出したとする。海外の顧客からは消費税が貰えないので、2番から1番を引くと-10円となる。
これが還付金の正体であり、優遇税制でもなんでもなく、単に払い過ぎた分を返してもらっているだけの話だ。

結局のところ、この世に“ただ飯”なんて無いのであって、誰かが負担しなくてはならないのだが、世の中には「とにかく目先の一円でも負担したくない」という朝三暮四的な人は少なくない。

そして、そういう人向けに怪しい論説を売り歩く人もいる。とりあえずは「消費税で派遣が増える」とか「輸出戻し税は大企業優遇策」とか言っている論者の話は、以後はスルーすることをおススメしたい。

それにしても、(ネタ的に)ゲンダイって凄いメディアだ。これでお金取って商売が成立してるって考えると、ある意味感慨深いものがある。
あと、文中で「東大法学部卒の政策通」とか持ち上げといてこれはあまりにカッコ悪いので、ゲラは事前に政策秘書にでもチェックさせることをおススメしたい。


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2012年4月16日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。