足元で米国の住宅メーカーの株価の上昇基調が続いている。米国の住宅メーカーの株価指数は年初来で22%の上昇と(4月19日現在)、市場全体の伸び(S&P500指数は8.9%の上昇)を大きく上回る上昇を見せている。これは新規住宅着工や在庫水準などの米国住宅市場に関連するいくつかのマクロデータにおいて、昨年末から反転の兆しが出てきていることを好感したものであるが、市場では依然として強気な見方と慎重な見方とで意見が分かれている。果たして長く低迷の続いた米国住宅市場は本格的な回復局面を迎えたと言うことができるのであろうか。これを考える上で、まず両者の論点を整理してみたい。
まず、住宅市場に対する強気派が注目している論点の多くは需要サイド、つまり新規受注・着工の回復にある。ケースシラー住宅価格指数は、2006年半ばのピーク時から33%低下しているものの、直近1年で見た場合には4%の下落と、下げ止まり感が出てきていることに加えて、住宅ローン金利(30年)も足元で4.05%と過去最低レベルにあるため、住宅価格の値ごろ感が足元で増してきている。事実、全米不動産業者協会が公表している住宅購入者が適正なローンを組める状況にあるかを示す住宅取得可能指数は過去最高値を更新し続けており、また、米国経済の回復期待から長期金利の上昇を予想する消費者が、購入を前倒ししてくる可能性もある。購入意欲の増加が、米国住宅市場の長期低迷の原因となってきた在庫の消化と価格の上昇を促すことで、中長期的に見れば、米国住宅市場は既に回復への好循環が始まっているという見方が強気派の意見だ。
一方で、慎重派は住宅市場のストックサイドへ注目している。米国住宅市場には新築市場よりも遥かに規模の大きい中古市場の住宅在庫が、差押さえ物件により未だに200万件(販売戸数の6ヶ月分相当)ある。更に今後差押さえとなる可能性の高い支払延滞者のローン分を加えると、潜在的にその3倍近い中古住宅在庫が存在するという、いわゆるシャドー在庫問題がある。このため、在庫増加リスクと価格下落トレンドは終わっておらず、住宅市場に対して強気になるには時期尚早といった見方が慎重派の意見として多い。また、足元での新規住宅着工の上昇に関しても、実際には集合住宅向けの投資案件が数字をけん引しているだけであり、戸建住宅の受注は上昇していないことも指摘される。事実、昨今の住宅価格の大幅な下落や、緩慢な景気回復により、持ち家を購入することへのリスクを感じている消費者が構造的に増加しており、集合住宅のような賃貸市場の回復が見られる一方で、戸建市場の着工件数は、強気派が期待する程は回復しない可能性がある。
このように、米国住宅市場に関しては、市場の見方は分かれている。ただ、前述の購入者から見た割安感だけでなく、労働市場改善や、政府による住宅ローンの借り換え支援策も下支え材料として加わってきており、今後ともコンスタントな増加が続ことが予想される。中古住宅在庫は依然として高水準であるため、住宅価格の上昇にはまだまだ時間を要するであろうが、一方でその在庫戸数は、前述のシャドー在庫を含めて見た場合でも、2010年8月のピークから一貫して縮小しており、足元でリーマンショック時の水準まで低下してきている。以上のことから、住宅市場全体が再度大幅に落ち込むリスクは日に日に小さくなってきており、過去数年来、米国内需経済の足枷となってきた住宅市場は、極めて緩やかではあるが、サイクル的には本物の回復局面へ突入している可能性が高いと言えるのではないだろうか。今後はシャドー在庫を含めた中古住宅在庫の変化に注意を払いながら、回復の確かさを確認していく展開となりそうだ。
小松原 周(こまつばら あまね)
ファンドマネージャー