オリンパス社臨時株主総会決議の瑕疵について(全くの個人的意見) --- 山口 利昭

アゴラ編集部

先週金曜日(4月20日)に開催されましたオリンパス社の臨時株主総会ですが、サンケイビズニュースや朝日「法と経済のジャーナル」等で詳細な報道がなされておりましたので、少しばかり総会の状況を知ることができました。開催時間は約3時間ということだったそうですが、同社関係者や参加された株主の皆様は、たいそうお疲れになったのではないでしょうか。前日までの書面投票の結果と包括委任状により、すでに賛否は総会前に決していたとしても、銀行出身の役員候補の方々に、30%以上の反対票が集まったそうですから、この反対票の重みは新執行部の方々にもかなりのプレッシャーになるように思います。


さて、元社長ウッドフォード氏の「株主」としての質問(事前質問状を提出していたもの)について、会社側がどのように回答するのか、非常に注目しておりましたが、一括回答方式を採用して、個別質問の際には「先ほど述べたとおり、英国の審判で争点となっているところなので、ここでは回答を控える、審判の中で明らかにする」と回答。つまり質問への実質的な回答を拒否されたようであります。ちなみにウッドフォード氏の事前質問状の全文がこちらからご覧になれます。これに対して、ウッドフォード氏は、会社法314条違反(株主総会における役員らの説明義務違反)を理由に総会決議取消の訴えを提起するかどうか検討中と報じられております。以下は全くの外野からの個人的意見でございます。

事前質問状の内容から推察しますと、ウッドフォード氏は各取締役、各監査役に対して「自分を解職にさせた理由、つまりウッドフォード自身の行動に重大な不正行為があった、とされる具体的な内容はなにか」説明を求めていたようです。おそらく、この具体的な内容を求めるなかで、自身が解職されるに至った経緯を説明してほしかったようであります。

しかしウッドフォード氏は株主の立場で質問をしたわけですから、なぜ監査役に固有の説明を求めなかったのでしょうかね?上程議案との関連で質問をしなければ総会決議の瑕疵につながらないため、と考えたのでしょうか。それとも取締役会で解職決議に同意した取締役の方々が、いまどのように考えているのか、その感想を述べてもらいたかったのでしょうか。しかし、自身を解任したことが不当だったのかどうか、という点は、取締役の職務の違法性に関する問題点ですから、当然に監査役に回答してもらうべき質問ではないでしょうか(もちろん、監査役自身の違法行為も関連するところではありますが)。

会社法314条は監査役にも株主総会における説明義務を規定していますので、その監査業務に関わる質問については概括的にでも説明をする必要があります。とくにウッドフォード氏を解任(正確には解職)した取締役会に出席していた役員の方については、取締役や監査役の責任調査委員会報告書でも「善管注意義務違反の有無」について重要な論点とされているのですから、取締役の職務執行の違法性については合理的な根拠をもって疑いが生じるところであります。したがって、監査役に何らかの説明が求められるところです。

一方、会社側は「ウッドフォード氏解任に重大な不正があるかどうかは、英国労働審判所で紛争中であり、ここでの発言が審判に影響を及ぼすおそれがあるため発言を控える」と回答しております。このあたりは、監査役が説明する場合にも同様の回答拒絶がなされるのかもしれません。たしかに裁判に影響を与えるような発言が求められるのであれば、回答を控えることについては、正当な理由になりそうな気もいたします。

ところで、英国労働審判所で争点となるのは、労働契約上の文言解釈の問題、つまり解雇するための正当理由があったのかどうか、という問題。いわば「民と民の私法上の関係規律」の問題です。しかしウッドフォード氏が真に聞きたかったところは、自身を解任するに至った経緯であり、これは主として「企業と一般株主との開示規律」に関する問題であります。オリンパス社は当初「ウッドフォードは代表者として不適格」とリリースし、その後もマスコミの騒動に「今後は根も葉もないうわさで当社のことを悪くいえば法的措置をとるぞ」と世間に対して恫喝しました。しかし、その後は一転して不正事実を認め、謝罪会見となるわけですが、それでもウッドフォード氏解任は「正しかった」としている。では、最初の「社長不適格」なる役員会の判断が重大な不正行為になるのかどうか(投資家や一般株主に対する虚偽説明になるのかどうか)、という点は、単純にウッドフォード氏とオリンパス社との私法上の問題ではなくて、オリンパス社の一般株主や投資家への情報開示における不正行為ではないか、ということこそ問題となるはずです。この点については、オリンパス社は一般株主に向けての説明義務はあるはずで、「審判中」なる理由では回答を全面的に拒絶することはできないものと思います(このあたりは、質問する側が、もう少し上手に質問すればよかったのかもしれません)。

現に、最近の山口義正氏の著書やウッドフォード氏の著書によって、「ウッドフォード氏をCEOに選任した役員会の決定は、オリンパス社のHPに英文では開示されたが、日本語では開示されなかった」という不可解な事実も判明しています。これに不信感を抱いたウッドフォード氏が元会長らの辞任を強く求め、その結果、自身が解任された、という事実関係は責任調査委員会報告書にも記述がありません。解任の2週間前に取締役会でCEOに選任されながら、わずか半月後に「あいつは不適格だ」とされること自体不自然ですが、さらに上記のようにウッドフォード氏が元会長らに辞任を要求することにあたり、きちんとした理由(動機)があった、ということですから、「社長不適格」なる理由がおかしい(つまり一般株主に虚偽の説明をしたのでは?)と思うのは一般的な株主の立場からすれば素直な印象ではないでしょうか。なお、説明義務を果たすといっても、質問への回答は概括的なもので足りるでしょうし、英国の審判に関連する部分については個別に発言を控える、という形であれば、それほどの負担でもなかったように思われます。

なお、説明義務違反が認められ、上程議案の決議取消の原因になるとしても、つぎに「裁量棄却」にあたるのではないか? という問題がありますが、これはまた別の機会に述べたいと思います。


編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年4月23日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。