クルーグマンの量的緩和論

池田 信夫

また橋下市長から質問があったが、ツイッターでは答えられないややこしい話なので、簡単に先日の記事を補足する。

池田信夫氏の論も分かるけど、だけどノーベル経済学賞のクルーグマン氏は量的緩和論。中央銀行、もっと量的緩和やれよと。池田氏はノーベル賞のクルーグマンの方が間違ってる!と言うのかな?政治家は数ある論のうちどれかを選択しなければならない。そのプロセスを作ることが重要だ。

ノーベル賞かどうかは、議論の中身と関係ない(ノーベル賞をもらったスティグリッツは量的緩和に反対している)。クルーグマンの議論には批判も多いが、彼は日本の量的緩和もよく知っており、最近はバランスのとれた議論をしている。きのうのブログでは、こう書いている:

QE is an attempt to get traction despite those zero short-term rates by buying long-term debt, hopefully narrowing the spread and thereby boosting the economy. I don’t think it’s had a large effect, but that’s the goal.

これは基本的には、私の先日の記事と同じだ。つまりゼロ金利では普通の金融政策はきかないが、長期債を買って長短金利のスプレッドをせばめる量的緩和には意味がある。大した効果があるとは思えないが、弊害がなければやってみる価値はあるというのが彼の意見だ。

量的緩和がインフレ予想を作り出せるなら意味があるが、そのためには中央銀行が長期的に緩和を続けるというコミットメントが必要だ。これが日銀の試みた時間軸政策で、植田和男氏もいうように一定の効果はあった。つまり日銀のコミュニケーションがへたなのでうまく伝わっていないが、クルーグマンのいうような政策は日銀がすでにやったのだ。


池尾和人氏も指摘するように、日本の通貨供給量は、むしろ過剰である。上の図は横軸に名目GDP、縦軸に通貨供給量をとったものだが、通貨はGDPに比例する量の2倍以上になっている。クルーグマンもいうように量的緩和の効果は多分に心理的なものなので、日本のように金融緩和が慢性化していると、追加緩和の効果はほとんどない。