昨日(4月23日)の日経「法務インサイド」において、「富士通元社長辞任問題の教訓」と題する記事が掲載され、そこで富士通社には(当時)社外取締役3名、社外監査役3名がいったいどのような役割を演じていたのか明確ではなかった、社外役員の実効性(監督機能)が改めて問われるのではないかと報じられておりました。社外役員強化の方向性はわかるけれども、本当に実効性があるのかどうか懐疑的、といったトーンで書かれていたように思います。
先日、私は(学術的な目的のため)この判決文をある方から見せていただきましたが、地裁レベルの判断ではありますが、この富士通元社長事件の判決文を全文読みますと、少し違った印象を受けると思います。といいますのも、社外監査役のおひとりが、元社長に対して厳しく尋問を行うシーンが(録音レコーダーで記録されたまま)、そのまま判決文に引用されているからであります。ちなみに本事件では、原告(元社長)側が、脅迫や強要によって辞任を迫られ、自由意思を奪われていたと主張しておられるので、本当に脅迫や強要があったのかどうかが詳細に検討された結果、(脅迫や強要の事実はない、とする判断根拠として)判決では詳細な会話内容が引用されることになったものと思われます。
この社外監査役の方には、尋問までの綿密な準備、一回の尋問によってなんとか解決に至らしめる気迫が伺われるのでありますが、判決全文を読みますと、とても社内の取締役や監査役では同じことはできないと確信いたします。本件はまさに企業の有事対応が問題となっておりますが、なんとか企業の自浄作用によって不祥事を解決しようとする意図がひしひしと感じられます。もしこういった場面で他の取締役や監査役が社長を辞任に追い詰めることができるとすれば、すでに社内で社長と他の役員の間で支配権争いを演じており、社長の反対側に大株主がバックについているような場合くらいではないでしょうか。私はこの判決文を読ませていただき、上記の記事とは逆に社外役員の有効性が如実に現れた事案であると認識しております。
何度も申し上げるところですが、反社会的勢力と上場会社との接触は、「後から発覚」では遅いわけでして、合理的な疑いのあるところでどう対応するか、ということが最も大きな課題であります。元社長さんにとっては、判決後の記者会見で述べておられるとおり、突然の辞任要請、しかも役員が一堂に会している場ではないところで、ということから、デュープロセスの視点から疑問を感じるとのこと。たしかに会話の中でも、「なぜもっと早く警告をしてくれなかったのか」とおっしゃっているところもあります。しかしこの点についても、判決文を読みますと、会社側として手続き的にも最大限の配慮がなされているようです。なかでも「どうして警告が元社長の耳に入らなかったのか」という点については、企業組織における情報伝達のむずかしさが示されており、こちらもコンプライアンス的には勉強になるところです。
内容を相当にうまく削除(訂正)しなければ、当該判決文は公表されないかもしれませんが、企業法務的には非常に価値の高い判決文であると感じた次第です(判例情報誌などで全文掲載されるといいのですが)。また、高裁がどのような判断を下すのでしょうね。
編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年4月23日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。