なぜデフレになるのか? --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

先日、週刊ダイアモンドに「アメリカがデフレに落ち込まないのはなぜか?」という記事が出ておりました。私はタイトルを見た瞬間答えは多分、これだろう、と予測をしたのですが記事はその通りでした。

北米に長く住んでいると正直、物価高に頭を抱えます。何故、こんなにするのか、と思う方は多いと思います。


自動車の定期点検。修理する部品は10ドルでも請求は500ドル。
市役所で新規ビジネスの許認可のプロセス料で650ドル。
修理業者に来てもらうと往復30分相当の移動費が60ドル余計に請求
レストランに6人以上で行けば自動的に15%~18%のチップが上乗せ。

これらはごく僅かな例です。そこに絡むのは全て人件費であります。そして人件費だけは岩盤の如く絶対に下がりません。日本人が欧米で食事をすると何故チップが必要か、と問われます。一般的にはレストランの給仕は最低時給しか貰っていなくてあとは自分のサービスの力量でチップ収入を稼ぐ、ということになっています。

それゆえに北米では基本的には担当給仕が決まっていて、その人からだけサービスを受けます。高級レストランに行けば担当給仕に更にアシスタントのようなボーイがいて水を入れたり、お皿を下げたりするのは「給仕の部下」にやらせます。ある意味、給仕の世界のヒエラルキーをそこで見せつけられるのですが、当然そこにはチップの分け前があっての話で客のほうも結果として15%とは行かず、20%は置くようになるわけです。

チップ相場も一昔前は10%でしたがこの20、30年でだんだん上がってきて今、15%はスタンダード、高級レストランは20%以上となっています。それが意味しているのはサービスのコストはどんどんあがっている、ということに他なりません。

雇用する側からすれば人件費の高さにはうんざりするものがあります。カナダでは時給の人には祭日手当てを休んでいても払わねばならず、有給休暇はどんな人でも未消化分を買い取らなくてはいけません。日本は祭日手当て(休日手当てではありません)など聞いたことがないですし、ましてや有給の買取も法制化されていません。が、それら従業員の付帯コストを払っていけば当然ながら人件費が占めるコストの割合は頭痛の種であり、それゆえ首切りもしやすいということかもしれません。

物価を考えるとき、モノの値段で考えますが、グローバル化が進めば耐久消費財の価格が急速に下がることは近年の物価を見ていればどなたでも納得していただけると思います。日本がデフレに陥り、北米はそうならない決定的理由は先進国であればあるほど消費するものは耐久消費財ではなくサービスのウェイトが高まるのです。サービスコストの下がらない北米では物価は下がらず、人件費を削り取り更に安いオファーをする日本との違いがそこに出てくるのです。

日銀が金融緩和を予定通り実行しましたが、その理由は目標としているインフレ率1%にまったく届いていないからであります。しかし、給与が下がりきっている日本において国民は更なる自衛をしています。例えば、食事については外食を減らし内食や中食にしているわけでサービス支出を抑えています。これはグローバル化の結果、消費財の値下がりだけを大きく吸収することになり消費財より価格硬直性のあるサービス費用(人件費)に跳ね返らないということであります。

もう一つは日本の企業が人件費抑制のため、機械化を進めすぎたこともあります。電車に乗るときもホテルでチェックインするときもラーメン屋で食券を買うのも全て機械です。

これは何を意味するかといえば、日本がデフレになったのは日本の企業が自分で自分の首を絞めたともいえるのです。ではもっと掘り下げてみましょう。なぜ、企業は機械化を進めたのでしょうか? 理由は日本では従業員を解雇できないからビジネスの変動や波にフレキシビリティのない人件費の削除を進めたとしたらどうでしょうか。

つまり、社員のクビを切れない日本の仕組みが結果としてデフレを招いたということに行き着いてしまうのです。

日銀がどれだけ頑張ってもそれは金融政策という一面だけであり、日銀の力で1%のインフレが達成できたとしてもそれは不健全なインフレかもしれません。やはり制度面をじっくり見直して健全性を高めることが重要かと思います。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年5月4日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。