生活保護世帯こそ大学進学を

純丘 曜彰 教授博士

オープンキャンパスだった。将来の夢を楽しげに語る高校生たちを見るにつけ、ああ、この背後に経済的事情で大学進学を諦めざるをえない家庭の子がどれほどいるのだろう、と気にかけずにはいられない。バブルが弾けて十数年。その後の長期経済停滞の結果、いま、社会の貧困が再生産されつつある。親の低収入が子の勉強の希望を断ち、彼らに最初からハンデを負わせる。


勉強は贅沢なのか。生活保護世帯の子は、大学に進学することは許されていない。分不相応の進学なんか諦めて、失業者としてプラプラやっているなら、そのまま生活保護を出し続けてやるよ、と行政は言う。だが、どうしても進学したいなら、保護対象から外れ、世帯を分けて自活しろよ、と行政は言う。しかし、この最悪の不景気に、十八そこそこの若者に学費も生活費も稼げ、仕事と学業を両立させろ、というのは、まず不可能だろう。これでは、行政こそが、失業と貧困の連鎖固定を推し進めてしまっている元凶だ。

親世代の経済的劣勢を子が挽回するためには、学歴は、重要な前提条件のひとつだ。もちろんスポーツや芸能で一発大逆転を狙う道もあるだろうが、それはあくまで例外。地道に勉学に励み、資格を取って定職に就くチャンスこそ、生活保護世帯の子に与えられるべきものではないのか。

新聞奨学生という手もあるのでは、と言うかもしれない。たしかに、それは返還不要で学費を出し、給与もくれる。だが、今の大学は、午後も夕方遅くまで講義や実習が詰まっている。夕刊配達とは両立しえないのだ。そのうえ、部数激減で新聞の営業所も昔のような余裕を失ってしまっており、かならずしも勉学や生活に適した環境では無くなっているところもあると漏れ聞く。

一部の企業が、大学の一年生でも内定を出すと言う。これは、就職まで保証されているのだから、新聞奨学生よりも有利だ。どうせなら、学費や生活費のままならない大学進学希望の高校三年生にも内定を出してやってほしい。講義や実習の後、夜でも安全安心に働けるなら、どんな企業でも、もっと内定を増やしてほしい。もちろん、大学も、学費減免などの措置は行っている。次世代を担うべき有為の人材の育成は、もはや行政には任せてはおけない。たとえ転社するとも、社会全体にとって必要不可欠の重要な投資だ。

もし誰の支援も受けられないとしても、けっして夢を諦めるな。世界の大学事情からすれば、米国は十九歳半、ドイツで二一歳過ぎ、スイスだと二二歳近くなって入学するのが当たり前。卒業するまでに、途中で休学して十年近くかかる人も珍しくはない。一方、日本の大学は、ほとんどが十八、九で入学し、定期四年で卒業する。つまり、もともと日本の大学生の全員がインチキの飛び級をやっているようなもの。勉強をするのに、それほど急ぐ必要もあるまい。むしろ社会経験があってこそ、勉強の内容にも理解が深まる。だから、とりあえず働いて、できるかぎり貯金し、それを生活費にして学費減免の大学に入る、カネが足りなくなったら休学して働き、また復学する、という道もある。働きながら通信制で学び、余裕が出来たら全日制へ転科してもいい。

因果は断ち切らなければいけない。あなたは、貧乏でもいいさ、大学なんでムダさ、と嘯くかもしれない。だが、あなたには、あなたの子まで絶望させる権利はない。いつか生まれてくるあなたの子のためにも、あなたの親があなたに課した不運を、あなたが自分で断ち切らなければならない。そうであってこそ、あなたは安定した家庭を作り、あなたの子に、この世に幸せに生まれるチャンスも贈ることができる。こんな世の中がこのままでいいと思っている人間ばかりではない。未来はある。けっして諦めるな。

by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka 純丘曜彰教授博士 (大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン)