違法にアップロードされたコンテンツをダウンロードすると刑事罰が科せられるという著作権法改正について批判する意見を掲載したところ、反論が来た。「無料ダウンロードが蔓延すればCDが売れなくなり、音楽家は生活できなくなる。」
経済産業省は『特定サービス産業動態統計調査』を実施している。長期トレンドをチェックすると、2000年には329億円だった音楽興行団収入が2011年には494億円まで増加したことが分かる。この間に入場者数は595万人が744万人に増した。したがって、入場者一人当たりの収入は5532円から6635円に上昇した計算になる。
CD市場が縮小する裏で、実はライブ市場が拡大していた。入場者数も増えたが、チケット単価を上げることで、市場はそれ以上に大きくなった。ライブを見たいファンが増えたので、売り手市場になっているのである。
ダウンロード数を稼げるような音楽家にはファンがいるのだから、ライブによって収入を得る道があるし、実際にそれを利用している。他方、AKB48はライブを起点にしてCDを売る、という別のビジネスモデルを営んできた。音楽家が生きる道はCD販売だけではない。
一方にダウンロード数も稼げない、駅前で歌うしかない音楽家が存在する。彼らは、無料であろうと何であろうと、人々が自分たちの音楽に気付くことを期待する。彼らには無料ダウンロードは敵ではない。エイベックスが運営する無料音楽配信サイトMuzieに3万組近い音楽家が集まっているのはそのためだ。
コンテンツを違法にアップロードする連中を擁護するつもりはない。彼らには刑事罰を与えればよい。「客」を集めるため大量にファイルを置く違法行為者を特定するほうが、全国民を対象にするよりも捜査効率も高い。他方で情報倫理教育を徹底していくことが、安易なダウンロードを防止するため長期的には有効な対策である。その間に、音楽家もダウンロードをビジネスに組み入れていけばよいのだ。
山田肇 -東洋大学経済学部-