22日ソーシャルゲームプラットフォーム6社による「ソーシャルゲームの利用環境向上に関する各種ガイドラインと新団体設立準備委員会の発足について」、(プレスリリース2)という発表が行われた。ハンゲームのNHN Japan、サイバーエージェント、グリー、ディー・エヌ・エー、ドワンゴ、ミクシィによるソーシャルゲームプラットフォームの6社による近く「ソーシャルゲーム利用環境整備協議会(仮称)」を立ち上げるという内容だ。(写真:左 グリー 田中良和代表取締役社長、 山岸広太郎執行役員副社長)
特に重要なのが、ビジネスモデルの根幹に関わるため、各社でまとめるのが最も難しいと考えられていた、アイテムを獲得する場合のガチャの登場確率を、表記するという方向性を打ち出しだしたことだ。
今回新たに発表されたのは大きく3つのポイント
発表は、ガイドラインとして発表されたのは「コンプリートガチャ等に関する事例集」、「リアルマネートレード対策ガイドライン」、「ゲーム内表示等に関するガイドライン」だ。
これ以外に、「未成年者保護」の問題が存在するが、この問題は、3月の段階で今回の前身に当たるソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会(6社協議会)ですでに18歳未満の利用限度額は1万円、15歳未満は5000円という上限設定が行われているため、今回は確認に留まっている。「リアルマネートレード」の問題についても同様で、より詳細に発表が行われたという形を取っている。ただし、今回の共同の施策については発表の22日より実施するとなっている。
5月18日に、消費者庁が「コンプリートガチャ(コンプガチャ)」を景品表示法に抵触するとして運用の見直しを発表した、それを受けて各社はコンプガチャの中止を6月30日までに実施すると発表している。それを受けて、何が抵触すると考えられるのかを「事例集」として今回新たに発表した。ただ、現在でも、これ以外の事例の中に含まれているものがないのかどうかは、消費者庁、総務省、経産省、法務省など各種行政組織とも現在でも、確認調整作業が行われているようだ。
確率表記等についてまで踏み込んだガイドライン
今回の発表で重要なのは、「ゲーム内表示等に関するガイドライン」だ。ゲーム内のキャラクターカードを獲得する有料のガチャを、どこまでユーザーに開示していくのかということだ。この点は、各社のビジネスモデルや収益の根幹にも関わり、各社の思惑の違いがあるため、最も議論がまとまりにくいトピックと考えられていたがが、微妙な問題にまで6社の間でのコンセンサスを取ることに成功した点は、評価できる。
「ガチャの条件や内容に関して適切な表示を行うことで透明性を向上させる」ことが、大きなポイントとして上がられており、以下の条件の3点の提示が行われている。
・アイテム区分の提供割合の表示
特定のアイテム区分(希少性)に含まれるアイテム1個ごとの提供割合の上限と下限
特定アイテム区分の提供割合
上記の同程度以上の透明性を確保する方法
・アイテム一覧の表示
有料ガチャの提供アイテムの一覧を表示
・サンプルアイテムの提供割合等の表示
当該アイテムの提供割合、もしくは、取得するための上限金額(設定されている割合)を表示
特に重要なのが3点目の「サンプルアイテムの提供割合等の表示」で、これまで希少なアイテムを確保するための見えなかった確率が明示されたり、最大いくらまで使用すればアイテムを手に入れる事ができるのかが「ユーザーに見える」という形にするということだ。これはプログラムの改編等大がかりな作業が必要であるため、実施を9月からとしているが、こうした確率を利用したゲームで最も重要なのはユーザーに納得性のある「ゲームの公平性」を保てるかどうかが問われる。
実際の運用についての検証はこれから
ただし、最もこれらの確率表記が、確実かつ正確に行われているのかは、ユーザーには検証が難しい。このガイドラインも強制力はなく、運用は各プラットフォーマーの責任において実施されることになる。そのため、表示は行われているものの、実際にはそれらを守らないサービスが登場するということは十分にありえる。ただ、それが発覚した場合には、プラットフォーマーは、その企業のサービスを打ち切るといった対応が可能であるため、一定の強制能力は持つことができると考えられる。
同時に、筆者は、ユーザーの側からのクラウドソーシングによる監視も重要な役割を担うことになるになりうると予測している。
グリーで行われたメディアブリーフィングのQ&Aまとめ
22日、グリーで、田中良和代表取締役社長、 山岸広太郎取締役 執行役員副社長により、今回のガイドラインについてのブリーフィングがメディアに対して行われた。筆者も参加しており、下記にその内容を記載しておく。質問者は、筆者以外の人物も含まれている。回答には、グリーの2名の回答が別々に行われているものもあるが、区分しないで記載する。
なお、筆者は現在、グリーの「利用環境の向上に関するアドバイザリーボード」に外部有識者として参加しているが、質問内容についてはあくまでジャーナリストとして、公平性を保つ形で質問を行うように注意したつもりである。
—今回のソーシャルゲームをめぐる一連問題はなぜ起きたと考えているか?
ソーシャルゲームが急激に利用されるようになったことが大きい。本来は、もっと早期に自主的に取り組まなければらなかった。サービスの広がりよりも、(対策の)方法が遅れてしまった。我々としては、今後の事業の成長や、サービスという業界の発展のためには、こうした取り組みが必要だと考えている。
そのためには、まずは、自分たちでやることをやろうで、6社のもので、同時に幅広いサービスを使って、ガイドラインにしていく枠組みを検討していこうとしている。幅広いものをつくりながら、遵守していくためには、委員会で行っているガイドラインを策定するだけではなく、外部の有識者など、幅広い人に入ってもらい(議論やチェック作業を)行ってもらうことが必要になると考えている。
ーこのガイドラインの強制力はどこで確保するのか?
オフィシャルとして定めたガイドラインは、各社は自社の基準として考えていく。各社が運用されるというもの。現状では各社に任される。ただ、連絡協議会はプラットフォーマーしかいないので、ゲームを提供しているSAP(各ゲーム会社)は規約を破るということはないだろう。一義的に、業者としての事業者として共通の決まりを作っていて、完全に強制していくのは独占禁止法に抵触する可能性があるため、現在の形になっている。
—新団体設立準備委員会のメンバーにCESA(コンピュータエンタテインメント協会)の和田洋一理事(スクウェア・エニックス代表取締役社長)が入っているが、どのような経緯で入る事になったのか?
CESAは健全化という知見を持っているので、CESAの理事会社バンダイナムコ、コナミ、カプコン等の既存のゲーム会社に入って頂くというものは必要だと考えていたため。日本オンラインゲーム協会(JOGA)は現在入っていないが、緊密に連携していく必要があると考えている。
—確率の表記は、実際にはどのような形になるのか?
確率の表示は、各社の取り組みによって行われていく。
—リアルマネートレード(RMT)問題は売上を押し上げる効果があったという意見があり、意図的に放置していたのではないかという指摘があるが、なぜ対応が遅れたのか?
RMTの監視よりも、昨年は、ゲーム内でのソーシャルネットワーク内の出会い問題対策に注力して機能改善を進めていた。一方でRMT問題の、対応が遅れたのは大きな反省点と考えている。明確な悪意があってRMT問題を放置していたということはない。RMTが収益を押し上げるということはない。
—6社以外に、アップル、グーグル、フェイスブック等の海外プラットフォーマーが存在するが、それらについてはどのように考えているか?
6社で議論をやったことを、準備委員会で議論して、呼びかけていくようにしたい。
—今回の施策を通じて、グリーの売上に対してはどのような影響が出ると考えているか?
まず、(売上よりも)法律に準拠して行って、事業としてやることが重要。その上で、より多くのユーザーに遊んでもらえるように、(施策を)行っていくべきことだろう。
売上への影響については、一概には言えない。ガチャ一つとっても、(確率の表記がわからないので、現在の利用は)ユーザーには不安でわからないために、表示が行われれば安心して使われる方もいると考えられるし、逆にゲームのおもしろさがなくなるということから、ゲームをやめてしまう人も出てくることもありうるだろう。そのため、プラスマイナスがあるだろう。それよりも、より多くの人に安心して使ってもらえるように努力をすることが重要。
今回の発表をどのように捉えるべきか
今回のガイドラインの発表と、新団体設立準備委員会を始めることは、ソーシャルゲームの一連の問題に対して、一応は、包括的な回答を出すことができたと、私自身は一定の評価ができると考えている。ただし、重要なのは、実際に「機能するのかどうか」という点だ。また、こうした自主規制によって社会的にも認められるのか、社会の側も厳しく注視し、監視していく必要があると考えている。
まだ、ソーシャルゲームが社会的な娯楽として、定着できるのかどうかは、今後の各社の努力に掛かっており、また、すべての問題が解決したとまでは言えない。ガイドラインの発表だけで終わったわけではなく、今後も業界としての努力が求められるだろう。
新清士 ジャーナリスト(ゲーム・IT)
@kiyoshi_shin