今年の株主総会の話題としては、電力会社や不祥事を起こした企業に集中した感があります。ガバナンス問題によって会社側の取締役選任議案が否決され、株主側提案による社長さんが誕生した会社も出てきたようであります。しかしながら、マスコミの関心とは別に、当ブログとしましては、今年の株主総会の「真打ち」としてアコーディアゴルフ定時株主総会に注目しておりました。予想通りといいますか、前代未聞といいますか、壮絶な株主総会となっているようであります。
結局のところ、本日(6月28日)の総会では取締役議案の賛否集計が終わらず、29日の午前10時に議長が集計結果を報告する、という事態となりました。法的には総会をいったん打ち切って「延期」や「続会」にする、ということではなく、実際に集計作業が続いている、ということでしょうから、28日の午前10時から29日の午前10時まで株主総会が続いていることになります。つまり会社側も、大株主側も、委任状争奪戦をもって24時間以上闘い続けている、ということであります(いちおう、ホテルニューオータニの会場はそのまま使用され続けている、というなんでしょうね)。
会社側リリースによりますと、どうも会社側による取締役・監査役候補者の大半の方々が過半数の賛成票を得たようですが、委任状の集計結果次第では、ほかに会社側候補者2名、大株主側候補者1名の方の賛成票が過半数に達する可能性があるとのこと。「大株主側は敗れたのか?」と思いきや、深夜になって大株主側(アコーディアゴルフ株主委員会側)よりリリースがアップされ、「不公正極まりない会社側の行為によって総会の手続きが異常事態となっている。我々は今後、委任状等の閲覧謄写請求を行い、株主総会決議取消の訴えも辞さない」と声明を出しておられます。ちょっとこれでは株主総会で決着がつく雰囲気ではなくなってきたようにも思われます。
こういったことにならないように、わざわざ事前に裁判所によって総会検査役が選任されているのではないか? とも思うわけであります。しかし、そもそも総会検査役というお仕事は、決して「株主総会を仕切る」ことが求められているのではなく、そこで行われている手続きや決議方法を逐次観察して、これを記録し、報告するというものであります。ただ、総会が混乱しないように検査役が選任されるのであれば、あらかじめ双方の代理人弁護士と集計方法や委任状の有効性に関するルールについて合意したり、事前に予想もしていなかったような問題が発生した場合のジャッジを行うなどといった、多少「権限外」とも思われるようなことにも積極的に参画すべきではないか、とも思ったりしております。なお、こういったことは外野だからこそ言えるのでありまして、いざ総会検査役の立場からすれば、委任状の有効・無効の判断が速やかに行われることは重要ではあるものの、あまり(法の趣旨を無視して)荒っぽいルールで仕切ってしまいますと、今度は株主総会決議の有効性にも影響しかねないところなので、どこまで総会検査役が仕切ってよいのかは、非常にむずかしいところであることは事実であります。
現に、会社側リリースによりますと、議決権行使数を確定するための委任状の有効性の判断に時間を要するために、一日では取締役・監査役選任議案の集計結果が出ない、ということのようであります。会社側も大株主側も、あらかじめ一般株主向けに「委任状発送上のご注意」ということで説明をされていたようですが、それでも1000枚以上の委任状に疑義があるとのこと。平成21年1月から株券電子化が施行され、届出印制度が廃止されましたので、委任状の真正の確認が行いにくくなっています。また、ひとりの株主が会社側と大株主側双方に委任状を提出しているような場合には、日付の遅い方が有効として取り扱うはずですが、これも日付が同一であったり、日付が記入されていない場合にはどっちが有効とすべきかは判断しかねないところです。さらに事前に議決権行使書を提出していながら、委任状を送付している株主さんの場合、原則としては代理人が出席した時点で議決権行使書は効力がなくなりますので、その取扱いも問題となります。
こういった理屈の問題とは別に、その瑕疵の程度もさらに問題となります。委任状の記載から判断して、軽微な瑕疵の場合には有効としてもよいのではないか、瑕疵が軽微といえるかどうかは、双方の主張が食い違う場合どうすべきか等、考えるだけでも気が遠くなりそうな問題が発生するわけです。さらに、これは私だけの考えかもしれませんが、平成19年のモリテックス事件東京地裁判決が、両立しない議案に関する委任状の取扱いについて、委任者の合理的な意思解釈を許容しているところがありますので、ひとつひとつの委任状の不完全な記載部分を、委任者の全体の意思解釈によって補う、という作業も出てくるようにも思われます。もうこうなってきますと、委任状争奪戦に関与するすべての人たちの「互譲の精神」でもないかぎり、つつがなく総会を終了させることは至難の業ではないかと。
いずれにせよ、29日午前10時の議長報告だけでは、アコーディアゴルフの支配権争いは終結することはないように思われます。委任状・議決権行使書の閲覧謄写請求が認められるのかどうか、総会決議取消の訴えが認められるのかどうか等、争いの場は総会議場から裁判所に移りそうな気配がいたします。なお、総会に参加された株主の方から、総会の雰囲気等に関するご報告、総会審議に関するご意見・ご感想などをお待ちしております。マナー違反にならない程度にて、またご紹介させていただきます。
編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年6月29日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。