その土地は耕されているのか。それが大事。―@toriaezutorisan

村井 愛子

先日「なぜクックパッドの営業利益率は50%なのか」というニュースがありました。上場後も順調に成長しているようですが、意外とサービスの歴史は古く、1998年にスタートしてから月間利用者数が1000万を超えるまでには10年以上の歳月を要しています。


一方、チャットアプリ「LINE」は昨年の6月にリリースしてから1年足らずで2000万DLを達成しました。(アクティブ率も驚異的な数値らしいので、DL数×0.9あるいは0.8あたりが月間利用者数ではないでしょうか。)

クックパッドは1000万にリーチするまで10年以上もかかったのに、なぜLINEは1年足らずでその2倍までに達したのでしょうか。
ひとつめの大きな要因は、もちろん事業構造の違いです。クックパッドは、女性にターゲティングしたセグメント媒体であり、日本向けに作られたサービスです。そして、ユーザーに投稿してもらったレシピがコンテンツとなり、そのコンテンツ目的でユーザーに訪問してもらう形です。KFS(事業を成功させるためにキーとなる要因)は、潤沢なレシピを揃えることと、そのレシピを投稿してもらうための仕組みづくりになります。
一方のLINEは世界でリリースしており、チャットアプリという特性上、利用者をセグメントしません。さらに、ネットワーク外部性が働くため利用者が一定の閾値を超えると爆発的に普及する構造になっています。

このような事業体においての違いもあるのですが、ベースとして「その土地が耕されているか」ということがあります。例えばこちらの図をご覧ください。

これは、一つの事業が成長するまでを作物の育て方に例えた図です。

hatake01

・耕し期・・・事業を提供する土台が整うこと
・水あげ期・・・その土台に事業のタネを巻いて成長させること
・芽生え期・・・事業拡大の兆しが見えること
・豊作期・・・マネタイズに成功し、事業が成熟すること

ポイントは耕し期です。耕し期というのは、事業を提供する土台になるのでインフラや通信、ハードの話になります。クックパッドを例にすると以下のような感じです。

■クックパッドの例
・耕し期・・・1998年にサービススタート
→しかし、インターネットの常時接続が可能となるADSLが本格化したのは2001年にヤフーが「Yahoo! BB」を開始して以降。まだ通信インフラが整備される前にサービスを立ち上げていた。※1
・水あげ期・・・サービス開始以降、顧客目線のサイト構築を繰り返す※2
→サーバーに蓄積されたログを気の遠くなるほど解析して、顧客の導線を分析していたという。ちなみに集合知のようなweb2.0というキーワードが登場するのは2005年以降。CGM的なサービスは一般に浸透していなかったと思われる。
・芽生え期・・・2006年に月間訪問者数が50万突破※3
これ以降、訪問者数及びPVは順調に成長していく
・豊作期・・・マネタイズに成功し、事業が成熟すること
2009年にはマザーズへの上場を果たし、現在は営業利益率50%以上の優良企業となる

耕し期の条件が整うには、インフラ整備が必須条件になることが多いので、国の政策によって達成されるか、力のあるイノベーターにしか成されないことになります。
しかし、クックパッドは常時接続が一般化する前からすでにサービスを開始しているので、相当タイミングが早かったことが分かります。さらに、今ではCGM型のコンテンツは珍しくありませんが、当時はマス媒体がプロのライターの原稿や、専門媒体の記事を集約して配信するという形が主流であったため、サービススキームもかなり先をいっていたことが分かります。

つまり、事業を立ち上げて短期間で成長させたい場合には、耕し期と水あげ期の前提条件が以下のように整っていることが必須になるわけです。

・耕し期→サービスを展開出来る土壌が整っていること。(インフラ、デバイス)
・水あげ期→ユーザーへ提供するサービスが、既にユーザーに認知されていること。(認知されていない場合はユーザーの教育コストが発生する)

これをわずか1年で2000万DLを達成したLINEに置き換えるとこうなります。

■LINEの例
・耕し期・・・2011年6月にサービススタート
→スマートフォンがiPhoneを中心にすでに普及
→APPストアとAndroidマーケット(現googleplay)の出現により、世界のマーケットに向けてアプリを配信することが可能な状況
・水あげ期と芽生え期が同時に進む・・・あれよあれよという間に成長。2012年に入ると1000万台突破
→グループチャットアプリというジャンルはすでに存在しており、ユーザーが既に認知しているジャンルだった。1,000万DLを達成していた「カカオトーク」という競合も存在していた。
・豊作期・・・これから
2012年4月に有料スタンプを販売開始する等、マネタイズへ舵を切る。

ということで、まとめですが「耕し期」というのは、場合によってはなかなか達成されないし、耕せるのは孫さんやスティーブ・ジョブズといった力のある人たちです。そこのタイミングを見極めて「水あげ期」から事業を起こすことになると思うのですが、LINEみたいにうまい具合にマーケティングをすれば、前提条件が整っているので、爆発的に事業が成長することになるのですね。大きい会社は半年や1年で事業の成長性を見極められるので、このポイントを抑えないと社内で村八部になるのかもわかりません。
逆にスタートアップであれば3年くらい時間をかけて、水あげ期から事業を立ち上げてアーリーアダプターを囲っていくのも、良いのかもしれません。

しかし、一番すごいのは耕し期から全てを行おうとする企業です。例をあげるともちろんApple、google、ソフトバンクグループ等でしょうか。先日来日したAmazonのジェフ・ベゾスも「Amazonは収益化するまでに5年間投資し続けられる準備がある。それが強み。」と言っていたので、前提条件の整備やユーザーの成長を待ちながら投資をし続けられるのだと思います。(そして、全ての環境が整った際には、その新しい市場のすべてを手中に収めるという・・・)

何はともあれ、今は耕し期が整備された大チャンス期という気がするので、色々なスタートアップさんたちが登場してきて面白いのではないでしょうか。
そして今回も長くなってしまったので、こぼれ話をブログに書きます

※1総務省の発表によると2003年(平成15年)12月末には1000万回線を突破した
※2書籍「600万人の女性に支持されるクックパッドというビジネス」より。
※3「クックパッド」決算資料掲載のグラフを参照したが、実数の記述がないため多少の誤差がある可能性あり

村井愛子

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