日経電子版で7月第一週によく読まれた記事ランキングで一位になったのが「さらばパナソニック、知られざるカリスマの胸中」と題された偉大なる経営者、パナソニックの中村邦夫氏の長文記事。同社に於ける氏のトップ在任中の手腕、そして業績回復、更には今年3月、再び最悪の決算を余儀なくされた社内からの中村氏復活の期待の声が高まるものの固辞し続け、6月の株主総会で役員を退きました。
本来、最後の晴れ舞台になるべき株主総会で巨額赤字に対する謝罪で頭を下げざるを得なかった中村氏の無念さが聞こえてきそうであります。
ではパナソニックがなぜここまでの苦境に追いやられたか、中村氏本人の弁として遅すぎた「テレビに対する経営判断の誤り」であり深く悔やんでいます。特にパナソニックの場合、プラズマに精力を注ぎ、途中から液晶にも参加するという苦渋の選択をした経緯があります。
結果として中村氏が社長、会長に在任した間の2001年3月期からの利益を全部足しても巨額の赤字が残ります。V字回復だと短期的に喜んだ時期もありましたが株価が32年ぶりの安値をつける理由は利益という視点で考えれば今世紀に入り何も生み出さなかったのですから当然といえば当然かもしれません。
実は日経ビジネスに中村氏の思いとまったく重なるであろう方のインタビュー記事が出ています。それは山水電気というオーディオメーカーの社長を歴任したことのある伊藤瞭介氏。同社はトランス技術が圧倒的に優れ、一時期世界No.1のオーディオメーカーとしての風格がありました。しかし、安価なオーディオが市場に溢れ、価格競争の波に飲まれ、最後に円高でノックアウトパンチを食らったことで経営が悪化、上場廃止後も細々ビジネスをしていましたが今年4月に破綻しました。
この伊藤元社長の記事に見落とせない指摘があります。「かつて専業メーカーには必ず才能溢れるタレントがいました。彼らの多くは組織に迎合せず、一匹狼の様な存在です。… (会社が)リストラに走るとこうした人材が真っ先に会社を去ってしまう。彼らは企業のブランドや心意気にロイヤルティを感じるからこそ会社に留まってくれる。」
実は先述の中村邦夫氏の記事にも肥大化した組織は組織内営業に走り社長のお得意さん周りに社員がぞろぞろついていくことに忸怩たる思いがあったことを述べています。
パナソニックと山水、企業の規模は雲泥の差ですが、同じ電機業界で共に世界の市場と戦い、トップまで上り詰めた二人の経営者の落日の想いや悔しさが手に取るように分かるこの二つの記事は日本の抱える問題を赤裸々に綴ったものだといえます。名経営者であっても軌道修正できなかったということは日本が目指さなくてはいけない改革は中村流「破壊と創造」の第二段なのでしょうか? 日本企業の目先の業績回復は確かなものですが、それが中長期的にビジョンを持って磐石なものになっているかはまだまだ疑問が残る気がいたします。
非常に考えさせられる二つの記事でした。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年7月9日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。