再燃する慰安婦問題

池田 信夫

いわゆる従軍慰安婦については、日本のメディアは何もいわなくなったが、韓国メディアだけが執拗に報道を続けている。朝鮮日報はアメリカのクリントン国務長官が米韓外相会談でcomfort womenではなくenforced sex slavesと呼ぶべきだと述べたと報じた。国務省は公式にこれを確認していないが「人権侵害だ」とコメントした。


以前の記事でもおさらいしたように、事実関係は明白である。民間人の営んだ公娼は広く見られたが、「従軍慰安婦」なる軍属は存在しなかった。そういう軍命の文書はなく、強制連行されたと証言する日本人慰安婦も命令した兵士の証言もない。たった一人、「私が慰安婦を連行してきた」と証言した吉田清治は、それがフィクションであることを認めた。

私はかつて大阪に勤務していたころ、この問題に2年ぐらい付き合わされたが、その本質は事実関係ではなく韓国人のプライドにある。彼らは同じような環境にあった日本より経済発展が遅れた理由が「日帝36年」の植民地支配だと信じているのだ。しかしハーバード大学の調査でも明らかなように、日本の植民地支配は「赤字経営」であり、日本の築いたインフラが戦後の韓国の経済発展の基礎になった。

これについてファーガソンはおもしろいことを言っている。「非西洋圏で唯一、自律的な近代化を成し遂げた日本は、西洋の圧倒的な成功の原因が何かわからなかったので、洋服から帝国主義まですべてをまねた。ちょんまげをやめたことは衛生上よかったが、時代遅れの帝国主義をまねたことは大きなしっぺ返しを食うことになった」。

東洋では帝国主義戦争の経験がなかったので、その戦後処理のやり方もわからなかった。日常的に戦争していたヨーロッパでは「集団的記憶喪失」によって戦争の問題は早く忘れる習慣ができているが、対外的な戦争の少なかった中国も韓国も「時効」なしに日本を追及し続ける。

戦後処理は、日韓条約と賠償で終わっている。いまだに慰安婦だけが騒がれるのは「日本が事実を認めない」とされているからだが、これは逆である。アメリカ政府まで「性奴隷」の存在を信じているのは、吉田清治の話を真に受けて慰安婦が「女子挺身隊」だったなどという誤報を流した朝日新聞と、それを受け売りしたNYタイムズに責任がある。彼らが誤報を訂正しないと、韓国の誤解は解けないだろう。