ではいったい何をすべきか(後) 政策提言に可能なこと

小幡 績

リフレ派の政治家の意見は、それを言うこと自体に意味があるから、議論のしようがない。


日銀から一本とった、と言いたい欲望を満足させるのであれば、インフレターゲットを設定させてもいいが、もはや実質的には設定されてしまっているので、もはややりようがないか。

量的緩和に関しては、かつての日銀の正統派量的緩和は、将来一定期間にわたってのゼロ金利コミット効果がメインであり、量的緩和を求めている人々の狙いとは違う。彼らは、国債を買わせたいか、株を買わせたいかだ。

なぜ国債を買わせたいのは意味がわからない。リフレ派で量的緩和支持者は、基本的に政府に対して批判的であるから、財政ファイナンスにほかならないこれ以上の国債購入による量的緩和は政府(政治家主導の)の無駄遣いを増長させるだけだから、彼らも反対のはずなのだが、国債を買っても大丈夫だという。

これは、論理矛盾であるが、論理にこだわってはいけない。彼らは日銀を叩きたいだけであり、威勢のいいことを言いたいだけなのだ。増税も何もしなくていい。景気はよくなる。それを言うことは気持ちがよい、経済を何も理解していない人々に受けがいいことを言うことに快楽を感じているのであるから、彼らにつける薬はない。まともに取り合っても仕方がない。

泥仕合といっても捨てるところは捨てるべきなのである。

やっかいであり、戦うべき相手は、いわゆる市場関係者やエコノミストたちだ。

彼らは確信犯だ。

単に株価を上げ、マーケットを盛り上げたいがために、(そして自己の職と所得を確保するために) 量的緩和を主張している。

株を日銀が買えば、その分は株は上がる。当たり前だ。

国債に関しても同様で、金利の低下により、債券全体が上昇することになる。

しかし、これでもインフレにはならない。

インフレになれば、債券は暴落するから、それは彼らの意図に沿わない。

インフレになるためには、モノの値段が上がらなければならないから、そして、それはモノへの需要が供給を上回って増えなければならない。そして、モノはいくらでも世界的に供給されるから値上がりすることはない。

つまり、インフレにはどうやってもならないのだ。

インフレになるシナリオは、いわゆるコストプッシュ型のインフレ、原油や穀物などの必需品の輸入価格の上昇によるものがひとつ。もうひとつは、賃金上昇により、すべてのモノ、サービスの価格が上昇する。そう。インフレの唯一の王道のルートだ。この話はまた別の機会にしよう。

インフレにならないことを承知で、インフレにせよ、そのためにリスク資産および国債を買え。これが彼らの主張である。その後、日本経済がどうなろうと知ったことではない。混乱すれば、金融市場でもうひともうけ。volatilityこそが飯の種だから。

なぜ、このようなリスク資産市場のインフレ(そう、こちらのインフレだ。資産インフレ)に付き合ってはいけないのか。それは、現在の欧米の苦しみを見ればわかる。ディレバレッジ、資産インフレのために大量に膨らませたポジションの縮小に苦しんでいるのだ。金融市場が結果的には、不況下のバブルにより、苦しむことになる。

この戦いは、一般的な議論では負けそうである。株が上がって、国債が発行しやすくなって、誰も短期的には損しないどころか、救世主のように見えるからだ。さらに、量的緩和を米国が仕掛けてくれば、円高も進むことになるから、円高防止としても支持されるだろう。長期的な資産市場の不況下のバブルの怖さは、目に見えないだけに伝わりそうにもない。

したがって、この議論に関しては、量的緩和は、資産市場のインフレを招くだけであり、政府の財政規律を緩め、財市場のインフレも起こさず、需要増にも直接はつながらず、資産家だけを利することになり、金融機関、投資家を儲けさせるだけだ、という議論でしのぐしかない。