ここでは日本初の本格的LCC(格安航空会社)であるピーチアビエーションの、関西-香港線の話題を中心に述べる。
海外ではすっかり定着しているLCCという形態が、日本でも今年になってピーチアビエーション(Peach)、ジェットスタージャパン、エアアジアジャパンの3社が運行開始することになり、日本も本格的なLCC時代を迎えるか、ということが最近話題になっている。
LCCの特徴についてここでは詳述しないが、ひとつの見方として、LCCは定時運行に対する信頼性の低さなどからビジネス客向きではなく、その低価格性から、従来飛行機に乗らなかった新たな層を発掘するので航空旅客需要を増やす効果があり、既存航空会社と両立できるということがある。
関西空港を拠点にするPeachは7月1日より、同社で最長路線となる関西香港線を就航させた。就航記念として片道4980円(サーチャージ不要、別途空港利用料等が必要)という格安のチケットを発売したので、筆者もそれに釣られて発売日にチケットを予約し、先日香港まで往復してきた。確かに4980円という値段は魅力的で、私に対しては新たな需要を喚起させることになったのだ。
私は現在長崎に住んでいるので、普段香港へ行く時には福岡空港からの直行便を利用している。もちろん直行便の方が便利なのだが、関空から香港までの安いチケットが入手できたので、長崎から関空までもPeachの国内線を利用することにした。ここでもLCCの安さから、福岡からの直行便ではなく関空乗り継ぎという新たなルートに利用価値が生まれたことになる。長崎から福岡まで陸上を移動する時間と、長崎から関空まで飛行機で移動する時間に大差はないということもある。
さて関空から香港までの行きの便だが、見た感じ日本人より香港のパスポートを持った人の方が多い。そして比較的若い女性が多い印象だった。Peachの戦略としては、若い女性の旅行需要を喚起したい、ということがあるようなので、その点では成功か。
日本人より香港の人の方が多い、ということは、Peachが日本の航空会社という点ではちょっと意外だが、冷静に考えると、なるほどな、という感じだ。
Peachの香港線は、日本に住む人にとっては利用しにくい時間帯だ。関西発21:20で香港着0:05、帰り便は香港発0:50で、関西着は5:30。この時間帯に設定されるのも、LCCのビジネスモデルとして、できるだけ飛行機を休ませず有効活用するということがあり、国内線では就航できない夜中の時間帯に、ちょっと香港まで一往復して一稼ぎしてくるか、という理由からなので、今後時間帯が大きく変わることはないだろう。
それにしても、香港の夜中の12時に着いても、そこから先が大変だ。香港の人なら家に帰ればいいのだろうが、旅行者はそうはいかない。荷物を受け取って入国審査を済ませると、1時頃になるかもしれない。そこからホテルに向かうのに、タクシーを使ってはLCCを使う意味が半減する。香港の空港は路線バスが24時間走っているから足には困らないが、バスだと市街地まで1時間程度かかる。そうなるとチェックインが夜中の2時、なんてことになりかねない。
私は最近年に3回程度は香港に行っていて、入国審査を早く済ませられるパスも持っている。そのため途中の手続きで戸惑うこともなく、預け荷物もなかったので、飛行機が早着したこともあり、12時前には入国できた。そのままトラブルなくホテルに着けたが、それでも部屋に入ったのは夜の2時近くになった。正直、いくら安くても、ここまでして香港に行きたくはないと感じた。
LCCは座席も狭く、機内での快適性も劣る。いくら航空券が安くても、往復の道中で苦しい思いをしてまで現地に行きたいと思わせる魅力が旅全体としてあるのか、ということが、新たな需要を喚起できるかどうかの鍵になるだろう。Peachの香港線の例でいえば、香港の人にとっては、そこまで時間も悪くないし、それ以上に特に香港の女性にとっては日本に来ることに対する魅力が大きいので、これから需要は伸びるのではないかと思う。逆に日本の人には、いくら航空券が安くても、そこまでして香港に行きたいという魅力が香港旅行にあるのかは、正直言って疑問である。少なくとも私は一度利用してみて、もうPeachで香港へは行きたくないと思った。香港に行くなら、従来通り福岡からの直行便を使いたい。
Peachの国内線をみても、関西-長崎便は時間帯が悪いこともあり、搭乗率が上がらないようだ。いくら安くても、そこまでして長崎に来たいという魅力が、残念ながら長崎には無いようだ。それに対し、飛行時間は長崎便より長いながらも、関西-札幌便は好調のようである。それだけ関西の人にとって北海道旅行の魅力は大きいのだろう。
LCCが今後成長するには、需要があるターゲットを絞り込んで、そこに対する営業を強化することが重要であろう。Peachの香港線の場合、日本での需要を増やすよりは、香港での認知度を高める方が成功する可能性は高いと感じた。関空での香港便と札幌便の接続をよくすることにより、香港から北海道への観光需要を喚起できれば、さらに伸びるだろう。
航空機を極力休みなく使うというLCCのビジネスモデルを活かすには、使いやすいダイヤの設定という点では柔軟性が低い。その制約の中で作られたダイヤの上で需要を喚起できるターゲットがどこにいるのかを見定めていくことが、LCC成長の鍵になるのではないだろうか。
前田 陽次郎
長崎総合科学大学非常勤講師