オリンピック強化費はメダル獲得数をどの程度増やすか

MATSUMOTO Kohei Ph.D.

2012ロンドンオリンピックが目前である。

近年の五輪は国、人、企業を巻き込んでのマネーゲームの様相を呈している。国をあげて五輪のメダルを争うことは間接的には経済を回す上で重要である。アスリートにとっても純粋に競技力向上を目指していて、そこにカネを落としてくれることは概ね競技に集中できることとなり、お互い利益相反しない。最近ロンドン五輪が近づくに連れ、ニュース、解説等の番組などでも日本の競技に対する強化費が足りないとの論評がある。そこでこの強化費がどの程度メダル獲得数に効果的なのか、または否かを各国のデータをコンパイルし、定量的に評価したので報告する。


とは言ってもなかなかデータがないのが実情である。オリンピック強化費と謳っているのは中国、アメリカ、イギリス、オーストラリア、韓国、日本、カナダ、シンガポール程度である。ドイツとイタリアのデータもそれらしいものは見つかったが、オリンピック専用なものかどうかの判別がつきにくいので、参考程度とした。日本円に換算した値を使用した。他に使用したデータベースは北京五輪のメダル獲得総数とした。これは金メダルのみでも殆ど変わらないが、シンガポールは銀メダル一つのため評価に加えるために総数とした。また2008年の国別人口で規格化した考察も行った。これは後述する。

まずは単純にオリンピック強化費に対して、メダル獲得総数をプロットしたグラフを以下に示す。

強化予算は20億円程度から300億円程度まで、メダル獲得総数は中国とアメリカが突出、アメリカの110個が最大である。前述したがドイツとイタリアは強化費か、スポーツ全体に予算計上しているが不明であった。このプロットで右に大きくシフトしていることから、スポーツ全体に予算計上している可能性が示唆される。またシンガポールは大きな強化費を計上しているが、低い理由が特別にありそうである。全体的には強化費を上げると成果も出てくるようなプロットであるが、メダル獲得数上位の韓国はその傾向については曖昧であった。

更に強化費がどの程度効果的であるのかをより明確に評価するために、その国の人口で規格化した。即ち、一人当り捻出した強化費で、人口当りどれだけメダルとして獲得できるのか、を計算した。それが次のグラフである。

結果として先ほど言及したドイツ、イタリア、シンガポールを除いてほぼ直線上に乗ることが示された。これは即ち一人一人が財布の紐を緩め、強化費に供すればするほど、人口当りのメダル獲得者も比例して増えることを示している。この結果を見ると、オーストラリアが一人当たりの強化費が突出している。その分人口あたりのメダル獲得数も非常に高い。一方で中国は一人当たりの強化費は人口の影響で実は低く、人口当りのメダル獲得数も最低になっている。今後中国経済が更に発展すればそのポテンシャルは非常に高いものと推察される。

以上の関係を線形と仮定した時の回帰直線は

y = 3.43×10^-3 x + 0.102 (r^2 = 0.859)

となり、この関係で86%説明可能である。この直線より高くプロットされる国は強化費に対してより高いパフォーマンスを示すと考えられる。また低い国は強化の効果が現れる途中、即ち育成段階か、何かの原因でうまくいっていないと思われる。パフォーマンスが高いのはカナダ、オーストラリア、であり、低いのは韓国、となった。前者の2カ国は身体的に有利であるかもしれない。韓国は育成段階で今後更に上向く可能性が示唆される。このことはシンガポールも同じ可能性もある。

結論としてオリンピック強化費は、単位人口あたりの捻出額が多ければ多いほどメダルとなって帰ってくる可能性が高い。また国の獲得メダル総数で議論するよりも、人口で規格化したデータのほうがより説明可能である。その成果が出てくるには時間がかかる可能性も示唆された。更には闇雲に強化費を上げても回帰直線から逸脱、下振れするようなこととがあれば方法が問われるだろう。しかしながらデータ数が少ないので、今後諸国の強化費のデータが公表された場合、新たな傾向が現れる可能性もある。また強化費の定義も曖昧であり、その評価が必要である。今後は労働生産性、一人当たりGDPなどの関連、及び一人が捻出した強化費がどの程度経済を回すのか、を議論したい。

参考資料:
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/sports/detail/__icsFiles/afieldfile/2010/05/14/1293139_1.pdf
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2010/03/04/1288214_1_1.pdf
http://esa.un.org/unpd/wpp/Excel-Data/DB02_Stock_Indicators/WPP2010_DB2_F01_TOTAL_POPULATION_BOTH_SEXES.XLS

松本 公平 (MATSUMOTO Kohei Ph.D., Geoscientist)
Twitter: @MATSUMOTO_K_PhD

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