「ソニーらしさ」はそろそろやめよう

常見 陽平

ソニーがスマートフォンの最新作、Xperia GXXperia SXを発売した。発表と同時にXperia GXの方を予約し、発売日にヤマダ電機新橋店に開店前から並び、一番乗りでゲットした。

この商品を手にして、操作してふと思った。「ソニーらしさ」とは何なのだろう?


Xperia GXは非常にクールな商品だと思う。簡単なレビューは個人ブログのエントリー(http://blog.livedoor.jp/yoheitsunemi/archives/54108814.html)にまとめたので、そちらを参照して頂きたいが、結論から言うと、大満足だった。高級感、未来感があるだけでなく、画面の動作などにいちいちワクワク感、やられた感があった。壁紙のセンス、最初から入っているアプリのセンスなど含めていちいちかっこよかったのだ。

もちろん、スマートフォンで言えば、AppleのiPhoneやSamsungのGalaxyの牙城をどう切り崩すかが課題となるが、これらの商品と比べても十分クールな商品だと感じたのだ。

この端末が発表された時、そして受け取った時に、ある言葉が心から湧き出てきた。それは「ソニーらしい」ということだ。Androidの端末という段階でオリジナリティはどうなのかと言う声もあるだろう。ただ、端末のデザインから性能まで、いちいちソニーらしいと感じたのだ。直感的に「わぁ、欲しい!」と思った次第である。

そして気づいた。この「ソニーらしい」は実に面倒くさい言葉であることを。ここ十数年のソニーは業績悪化が伝えられ、凋落ぶりが伝えられていた。何か新商品を出す度に「ソニーらしさがない」などと言われてきた。何かとAppleと比較されてきた。いや、今や比較の対象とならないくらいに差をつけられている感すらある。

ただ、今回のXperiaのようなクールな商品は実はたまに発売されている。発売が遅れているネットワークレコーダーのnasneのように、相当、冒険した商品も発売されてはいる。正直、価値が分かるような、分からないような商品なのだが、ITジャーナリスト(一応、IT雑誌で連載を持っているのだ、IT関連の)の端くれとして、ネタとして購入しようと思っている。

ふと気づいたことは、この「ソニーらしさ」というのは実に便利で、曖昧な言葉だということだ。イノベーティブ、クール、スタイリッシュ、ユニークなどのイメージが混ざった言葉だと解釈している。その象徴とされる商品は国内初のトランジスタラジオ、ウォークマン、ハンディカム、AIBO、VAIOなどだとよく言われる。ただ、これらが出た時代はまだ、「違い」を作りやすい時代だったのだと言えるのではないだろうか。

国境や分野を超えた競合との競争、競争のルールの変化の中、他社との圧倒的な違いを生み出すことの難易度は上がっている。それこそ、Appleや、Google、Facebookのようにプラットフォームを押さえる競争の時代になっている。もちろん、ソニーも何度もプラットフォーム作りにチャレンジはしているのだが。

「ソニーらしさ」という言葉ということが未だに言われることはソニーの強みであり、期待されていることであるのだろうが、だんだん呪縛のようにも思えてきた。以前の基準で言うならば、十分にソニーらしいものは出していると思うのだが、カスタマーにおけるその基準も変わっているのだろう。ちゃんと商品を見てやれよと考えるのだが、カスタマーには届かないと言うことか。

新社長の平井氏からも「ソニーらしさを取り戻す」という言葉がよく発せられ、株主もカスタマーもそれを期待しているようだが、いったんこの便利で曖昧な「ソニーらしさ」幻想を破壊して、21世紀らしい新しいソニーらしさを再構築することにこそ取り組むべきではないだろうか。

今後のソニーの動向を激しく傍観することにしよう。

試みの水平線