電波行政に関する自民党提言への疑問

山田 肇

自由民主党は8月7日に「これからの電波行政のあり方に関する提言」を発表し、周波数オークション導入反対と電波利用料の活用強化を表明した。オークション導入のための電波法改正案は3月9日に内閣から国会に提出され、衆議院で審議中だが、自民党の反対で成立はむずかしくなった。

僕らはプラチナバンドでのオークション導入を主張してきたが、すでに比較審査方式での免許交付が進んでいる。この点で電波法改正はタイミングを逸しており、当面大きなオークションは予定されないのだが、自民党は反対という。提言では「透明かつ迅速な周波数割当の推進」という見出しで反対を主張しているが、最も透明で最も迅速な割当方法こそオークションである。


電波利用料を電波新産業の創出、情報セキュリティ対策の充実、災害対策の強化に活用すべきという提言もおかしい。スマートフォンのセキュリティ対策は通信事業者と利用者自身が行うべきものだ。防災・安全安心のためにVHF帯の自営通信網を整備するのは、免許人である警察や消防の責任だ。警察や消防が予算を割けないのは彼らの中での優先度が低いためであり、それを電波利用料で無理やり整備しても、ちゃんと活用されるか疑問だ。

電波新産業の創出という項目では、地上デジタル移行後のメーカー経営の悪化を例示しているが、移行後にテレビ市場が縮小することは事前に分かっていた。それに備えてこなかったのは経営陣の怠慢である。なぜ駄目なメーカーに電波利用料を注ぎ込まなければならないのだろうか。

節電のためにメーカーはLED電球の増産に努めている。しかしLED電球は長寿命だから、普及が一巡したら、市場は急激に縮小するに決まっている。その頃になったら、自民党はLED電球メーカーを支援しろと言うつもりか。シャープやソニーの危機はマスメディアに大きく取り上げられたので、電波利用料による救済という案が出てきたのかもしれないが、市場の変動を予測して経営しなければならないのは、テレビでもLED電球でも同じことだ。

山田肇 -東洋大学経済学部-