以前にも、ほぼ同じことを書いたのだが、どうやら、業界関係者には自明のことでも、一般人には知られていないことがあり、それも説明しないと伝わらないと気がついたので、もう少し詳しく書くことにする。要約すると、医薬分業に法的根拠はなく、保険点数で院外薬局を優遇する補助金政策でしかないが、院内薬局と院外薬局とを比較した場合、外来患者の受け取るサービスは同じなので、補助金はまるごと無駄になっているということだ。
院外薬局(調剤薬局)への補助金は年間5000億円以上に達する
平成22年度の調剤医療費は5.8兆円である。この中で、薬の本体価格を除いた調剤技術料は1.5兆円である。分業率が65%であることを考慮すると、院外薬局には1.0兆円の調剤技術料が給付される。院内と院外の差は、処方内容によって異なるが、最低でも2倍以上なので、5000億円以上が超過給付である。本論の目的は、これがなぜ無駄かを説明することである。
厚生労働白書
調剤医療費の内訳(1枚あたり)
医薬分業に法的根拠はない
医薬分業の法的根拠として、通常、引用される条文は以下だが、ここに定められているのは、「調剤業務は薬剤師が独占する」(例外つき)ということであって、「外来患者に出す薬は院外薬局で調剤させる」ということではない。
薬剤師法
第19条 薬剤師でない者は、販売又は授与の目的で調剤してはならない。ただし、医師若しくは歯科医師が次に掲げる場合において自己の処方せんにより自ら調剤するとき、又は獣医師が自己の処方せんにより自ら調剤するときは、この限りでない。
1.患者又は現にその看護に当たつている者が特にその医師又は歯科医師から薬剤の交付を受けることを希望する旨を申し出た場合
2.医師法(昭和23年法律第201号)第22条各号の場合又は歯科医師法(昭和23年法律第202号)第21条各号の場合
病院・診療所内にも薬局があり、薬剤師は存在している。だから、外来患者に院内で調剤をすることは、法的に何ら問題なく、今でも、それを選択している病院・診療所は少なからずある。そもそも、20年前は院内調剤の方が普通だった。薬剤師を雇用していない零細診療所でも、19条但書にある自己調剤ができるので、やっぱり法律上は問題ない。
医薬分業とは補助金政策である
薬局が保険調剤で受け取るお金を調剤報酬と呼ぶ。それは以下の構成になっている。
調剤報酬 = 薬剤料 + 調剤技術料
薬剤料は薬自体の価格であり、どこで調剤しようと同じだが、調剤技術料が、院内薬局と院外薬局では、著しく異なっている。病院・診療所が受け取る処方箋料も若干増える。これが医薬分業の補助金なのだ。
わたなべ整形外科
補助金がそれ自体悪いということはない。政策目的と対応しているならかまわない。ところが、厚労省の主張する分業のメリットは全くナンセンスだ。
医薬分業にメリットはない。コストだけがかかる。 (以下、赤字は私のコメント)
平成23年度版厚生労働白書
[医薬分業の利点]
1)使用したい医薬品が手元に無くても、患者に必要な医薬品を医師・歯科医師が自由に処方できること。
院外処方箋を出しても、院外薬局の在庫の範囲に処方が限定される。院内だろうが院外だろうが、在庫費用を増やせば、在庫医薬品の種類は増やすことができるのであり、院外を優遇する理由にはならない。
2)処方せんを患者に交付することにより、患者自身が服用している薬について知ることができること。
医薬品の説明書は院内調剤でも交付されているので、処方箋を直接患者に交付する必要はない。そんなものを見ても患者はわからない。
3)「かかりつけ薬局」において薬歴管理を行うことにより、複数診療科受診による重複投薬、相互作用の有無の確認などができ、薬物療法の有効性・安全性が向上すること。
薬歴管理は「お薬手帳」で行うことが可能なので、特定のかかりつけ薬局を決める必要はない。そもそもかかりつけ薬局制度は全く普及していないし、今後普及する見込みもない。
4)病院薬剤師の外来調剤業務が軽減することにより、本来病院薬剤師が行うべき患者に対する病棟活動が可能となること。
病棟業務が必要ならば、病院薬剤師を増員すればいいのであり、外来患者への調剤をしない理由にはならない。院外処方箋が増えれば、院外薬局はその分だけ余計に薬剤師を雇うので、省力化にもならない。
5)薬の効果、副作用、用法などについて薬剤師が、処方した医師・歯科医師と連携して、患者に説明(服薬指導)することにより、患者の薬に対する理解が深まり、調剤された薬を用法どおり服用することが期待でき、薬物療法の有効性、安全性が向上すること。
薬の説明は院内薬局でも薬剤師がやっている。医師と薬剤師との連携は院内の方が緊密に行える。院外の場合は薬剤師には処方箋しか情報がなく、医師と電話でやりとりするだけだが、院内なら、医師と一緒にカルテをみられる。
よって、薬局機能を持つ病院・診療所が、外来患者の調剤を外部化する必要性は全くない。
むしろ、分業のデメリットが存在する。病院・診療所から薬局まで移動して別会計をする手間だ。どこの病院・診療所から出た処方箋でも、一箇所で調剤しろという、「かかりつけ薬局」構想は、患者の手間を全く考慮していない。
薬剤師を雇用できない零細診療所が、調剤を外部化すると、薬剤師が関与することになるが、それなら、19条但書の自己調剤と薬剤師調剤との間に点数差を設ければいいのであり、院外薬局に一律に補助金を出す必要はない。
なお、かつて、医薬分業の利点だと言われていた、「薬価差益を病院から院外薬局に分離することで過剰処方をなくす」という話は、公定薬価引き下げにより、仕入れ値(市中価格)と売値(公定薬価)の差額がほぼ消滅したので無意味となった。
結論
院外薬局に対する補助金は無駄だから、全廃すべきだ。具体的には、調剤技術料を院内と院外で区別せず、同じにすればいい。費用が高い院外薬局は自然消滅し、再び、病院・診療所は院内調剤をするようになる。コストは低下し、患者の利便性は向上する。零細診療所の自己調剤の調剤報酬に関しては、薬剤師調剤と若干の差額をつければ、薬剤師調剤のメリットに対応することになるだろう。
補論
19条但書の自己調剤と薬剤師調剤との間に違いがあるかどうかは、別稿で検討してみたい。キーポイントは、医療情報電子化だと思う。