情報の利活用と保護のバランス(会合ご案内)

山田 肇

武雄市図書館問題について、産経新聞から取材を受けた。今日10月19日に「金曜討論」として記事化された。記事中ではあまり触れられていないが、取材では個人情報保護についての質問が長かった。

収集した情報の商業利用は決して許すべきではない、と僕は単純には考えない。収集した瞬間には個人を特定できても、匿名化した後、統計データとして利用することは個人情報とは無関係だ。武雄市図書館はこのケースにあたる。情報の利用を提供者本人が認めている場合もある。購入履歴に基づいてアマゾンから推奨メールが届くのが実例である。

情報の無断利用や漏えいは怖い、と誰でも考えるだろう。だからといって、徹底した情報保護を主張するばかりでは、情報の利活用は進まない。


交通事故が怖いからと自動車の運転を厳しく制限したら(たとえば最高速度を5kmに制限したら)、自動車を利用する価値はなくなる。交通規制の現状では、だから、交通事故が起きる。その被害を補うために設けられたのが自動車保険であり、一方で、自動車の安全を高める技術開発も急速に進んでいる。

情報の利活用についても同様で、低い確率で漏えいが起きるレベルで保護の程度は十分だ。その代り、万一の被害を最小にする技術開発(リスクマネジメント)や、情報の不正取得を試みる者への罰則の適用を進めるのがよい。

一方で、情報の提供と秘匿に関する教育も進めるべきだ。便利さを優先してすべてをアマゾンから購入していたら趣味嗜好が明かされてしまうので、他のネット通販と並行して利用しよう、というように。世の中はビッグデータの時代である。ビッグデータには、個人を丸裸にしてしまう危険と、新しいサービスが生まれるという利便の両面がある。そのことを理解してビッグデータと付き合うべきだし、それに関わる教育が求められる。

僕が関係する情報通信政策フォーラム(ICPF)電子行政研究会では、行政のオープンデータ化について連続してワークショップを開催している。次回11月9日は『オープンデータと行政・市民活動』をテーマにする。ICPF本体では、経済産業省の課長を招いて10月24日に『IT融合とは何か』と題してセミナーを開催する。いずれも、情報の利活用を進めるべきという観点からの会合だが、情報保護重視派の方々も是非参加してほしい。きちんと議論することで世の中は前に進む。

山田 肇 -東洋大学経済学部-