安倍=麻生バラマキ政権は「日本売り」のチャンス

池田 信夫

安倍内閣が発足し、それを祝うように1ドルが85円台に乗った。これは安倍氏が「今まで税金を払っていなかった法人も85円を超えれば払ってもらえる」と具体的なレートに言及したためだそうだ。一国のトップが公然と相場に介入するのは非常識だが、それが相場には絶好の材料になっているのだろう。この円安はいつまで続くのだろうか。


釣雅雄氏上野泰也氏などが指摘するように、これは「アベノミクス」のおかげというより、2008年の世界金融危機で相対的に安全な通貨だった円に資金が逃避したリスクオフの動きが、暴落したユーロが落ち着いたことでリスクオンに戻ってきたことが最大の要因だ。

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ドル/円の名目為替レート(赤)と実質実効為替レート(青)日銀調べ

図のようにドル/円レートは、2008年を境に急激に円高に振れ、実質実効為替レートで見ても、そのとき跳ね上がった水準から戻っていない。今のレートは購買力平価などの絶対水準で見ると円高とはいえないが、相場がリスクオンに戻って2008年以前の水準に復帰するとすれば、円安基調になることは不思議ではない。

しかしファンダメンタルズでみると、為替レートの決定要因は金利差とインフレ率の差だ。FRBが2015年ごろまでゼロ金利を続けると表明したため、アメリカの実質金利は(インフレ率2%を引くと)日本より低いので、この状態でドルが大きく上がることは考えにくい。むしろ当面は「財政の崖」など、ドル安要因のほうが多い。

そんな中で急ピッチで円が下がっているのは、多分に政治的な要因だろう。これに関連して長期金利がじりじりと上がり始めたのも気になる。安倍氏が今後も日銀を脅して緩和を続け、そこに麻生財務相のバラマキ公共事業が重なると、長期金利が上昇するおそれも強い。つまり需給要因からは急激な円安は考えにくいが、政治的要因を考えると、悪い金利上昇と財政インフレが起きても不思議ではないのだ。

すでに日本の財政はソフトランディングできる時期は過ぎたが、財政・金融で金をばらまく安倍=麻生政権は、その死期を早めるおそれが強い。まだあわてる必要はないが、10年単位で運用する個人投資家は徐々に外貨建てに資産を移したほうがいいだろう。「日本売り」は、中長期には確実な資産運用だと思う。