日米首脳会議の結果とその後を予測する

山口 巌

安倍首相は今夜、日米首脳会議出席のためワシントンに向けて出発する。


このタイミングを捉え、日米首脳会議の結果とその後を予測してみたい。

先ず、アメリカに取って理想の状況とは如何なるものであろうか?

世界が平和で安定している事。「平和」がなければ「通商」は不可能なので当然の事である。

アメリカ国内の内需が好調で失業率が低い事。

欧州、日本とも経済がそれなりに堅調で、米、欧、日が協調して世界経済を牽引。

アメリカは平和を享受し、平和の配当としての世界経済の繁栄の果実の配分を受ける。

といった所ではないだろうか?

実態を精査してみる。

残念であるが欧州は凋落を続ける。欧州のエリート達が何度集まり鳩首を重ねた所で、精々没落の速度を遅くするのが精一杯である。

地中海を挟んだ対岸の北アフリカは、最近、アルジェリア人質事件が勃発した通り治安が重篤化している。

更には、サハラ砂漠の向こう側に位置する、マリなどサヘル地区では飢餓が蔓延しており、結果、イスラム過激派の温床となっている。

石油資源に恵まれたアラビア半島も、内戦状態のシリアは当然として、極めて不安定な状況に置かれている。

アメリカは、流石にサウジやサウジに雁行する石油資源に恵まれた湾岸の王国は「軍」を駐留させ死守するであろう。しかしながら、それ以外の共和国についてはそこまではやらないはずである。

こういう状況で、今世紀世界で唯一成長が期待出来ると評価されているアジアに暗雲が垂れ込めると、アメリカとしては自国の成長戦略が描けなくなってしまう。

暗雲の出所は北東アジアである。先軍政治を先鋭化する北朝鮮の問題はあるが、これは飽く迄局地の話で、問題の本質ではない。

勿論、世界第二位の経済大国、中国と第三位の日本の対立が問題の起点であると共に本質である。

従って、オバマ大統領が安倍首相に強く求めるものは;

自衛隊を増強する事での日本の防衛力の強化。

アメリカとの集団的自衛権を容認する事での、より効率的な自衛隊の運用。

フィリッピン、ベトナム、インドネシア、マレーシアなど、領土拡大の野心を露わにする遅れて来た大国、中国への対応に苦慮する国との軍事協力の深化。

軍事協力と併行しての、民生部門での「技術」と「資本」の提供。更には、専門家の派遣などにより、「人」、「モノ」、「金」を集中投下しての、この地域での発展の加速への支援。

上記が予測される。

そして、アジア諸国の発展と経済的成功がもたらす果実の応分の分け前に、日米が与かる事になるのは当然の結果である。

これに対し、中国は「安倍政権の右傾化」などと的外れないちゃもんをつけて来るに違いない。

そして、何時もの事であるが、賞味期限切れの政治家や、騒ぎを大きくして売り上げに繋げたいマスコミが提灯を持つ事になる。

そもそも、右傾化しているのは日中どちらなのだ? という話になる。

領海、領空侵犯を一方的に行っているのは中国の方である。中国海軍による海自護衛艦へのレーダー照射などは言語道断の暴挙であり、座視すれば尖閣は南沙諸島同様中国に実効支配されてしまう。

そして、尖閣で終わりではなく、これは日本の終わりの始まりに過ぎない。何れ、チベット同様日本は中国の侵略を受けるかも知れない。

背景にあるのは、中国固有の国内問題である。中国の高度成長は二億人とも三億人とも言われる「農民戸籍」を持つ農民工が地方から流入する事で達成された。

問題は、彼らが「福祉」や子弟の「教育」といった国民生活の中核で、まるで外国人労働者の如く差別されている実態である。

農民工に不満はあっても、輸出製造業が活況であればそれなりに雇用を吸収し、一定の待遇を供与出来た。

リーマンショック以降は、社会不安を危惧する中国共産党が財政稼働に舵を切り、何とか建設労働者としての職を供与し続けた。しかしながら、今となっては息切れ状態ではないのか?

「一国二制度」というトリッキーな制度の破綻の日が近いという事であろう。

中国共産党が今必死になってやっているのは、「強い中国」、「強大な中国」という判り易いスローガンを掲げ、日本を仮想敵国に見立て、挑発し続ける事だ。

二億人とも三億人とも言われる、強い不満と共に大都市に漂流する農民工の不満のはけ口を人工的に作り、政権を延命するためにである。

世界の繁栄のために努力を続ける日本と、かかる自己都合で隣国への挑発、侵略を止めない中国のどちらが「右傾化」しているのか? 議論の余地はない。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役