アラブの春から早い物で二年が経過した。
当時、日本の識者、論者の多くは「独裁は悪」、「悪しき独裁者が倒れれば、代って民主的な政権が誕生するに違いない」、という日本的な思い込みを背景に、エジプト、ムバラク前大統領の失脚やリビア、カダフィ大佐の殺害を好感をもって受け入れた。
フェイスブックなどインターネットによって革命の炎が一気に中東、北アフリカに燃え広まったのも日本人受けしたと思う。
何故だか良く判らないが、日本人の多くはインターネットがもたらすものは良いものに違いないと思い込んでいる。
それでは、アラブの春によって日本人は実際に何を手にしたのであろうか?
判り易い例は、アルジェリアの人質事件である。
今少し、普遍化していえば限りなく不安定化して行く中東、北アフリカという事になる。
中東、北アフリカでは少数部族が乱立し、部族間対立が恒常化している。従って、独裁者の不在はイコール国家管理者の不在となり、国内の治安は滅茶苦茶になってしまう。
イスラム過激派が跳梁跋扈するリビアは典型的な例といえるだろう。
日本は、この地域に石油と天然ガスの供給を依存しており、結果、日本の将来に暗い影を落とすに至っている。
眼を北東アジアに転じる。
この地域で独裁国といえば、最近核実験に成功した北朝鮮と中国共産党の一党独裁が継続する中国という事になる。
北朝鮮の戦略は判り易い。
金正恩の右手は核ミサイル発射ボタンの上にある。何時でもお前の国に向けて発射すると脅しているのである。
一方、左手は物乞いのため上を向いている。
早い話、「ならず者国家」、「ゆすりたかり国家」という事である。
こんな北朝鮮に将来があるとはとても思えない。しかしながら、仮に独裁者が倒れたとして日本や西側諸国が希望する様な民主的な国家に生まれ変わる事が可能であろうか?
無理と思う。
北朝鮮国民の民度が低過ぎて、とても民主国家を運営出来るとは思えないからである。この点、政治家、マスコミも含め日本も余り大きな事はいえないかも知れないが。
従って、現在の独裁体制が崩壊すれば、2,500万人といわれる北朝鮮国民は38度線を越えて韓国に殺到するのではないか? 韓国政府の本音では、北朝鮮との軍事的衝突より怖い話かも知れない。
韓国社会は大混乱に陥り、経済も破綻するかも知れない。三星電子やLG電子の栄華もこれまでとなる。
今一方の中国については、既に、中国という厄介者で説明した通りである。
詳細な理解を希望される方には、先月発表されたユーラシアグループの「2013年TOP 10 Risks」の一読をお勧めする。
今年二番目のリスクにして、単独国としては第一位という結論は日本に取って隣国であるだけにショッキングである。
そして、その理由がインターネットにより中国共産党の腐敗やシステムの不具合が暴露され、中国国民の知る所となるからというのも、アラブの春の経緯と結果を見て来ただけに不気味である。
独裁国家中国は公害を垂れ流し、「尖閣」で日本への挑発を止めようとはしない厄介な隣人である。しかしながら、独裁体制が終焉したとして民主化に向かう保障はどこにもない。
日本に取っての救いは、日中間には黄海や東シナ海があり13億人の中国国民が泳いで渡って来る事はないという事実くらいなのである。
山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役