TPPって何?

池田 信夫

安倍首相はアメリカのオバマ大統領と「TPP(環太平洋連携協定)は例外なき関税撤廃ではない」という変な共同声明を出しました。アメリカは前からトラックなどの関税の維持を求めているので、こんなことは最初からわかっているのですが、これは「関係筋」によるとTPPに参加するという意味だそうです。

TPPとは、アメリカ、オーストラリアなど11ヶ国の参加する自由貿易協定です。これはそこに入っている国どうしでは関税をなくして、自由に貿易しようというものですが、日本は3年近く参加をためらってきました。その最大の理由は、778%もかかっている米の関税を撤廃したら、輸入米が入ってくるからです。関税というのは、米の値段に上乗せされる税金で、たとえば1万円の米には7万7800円の関税がかかるので、実質的な輸入禁止です。

なぜ米が輸入されると困るのでしょうか? それは農協が反対しているからです。日本の農業人口は250万人しかいないのですが、選挙のときは頼りになるので、政治家は農協のごきげんを取るのです。どこの国でも農民は強いので、これは日本だけの現象ではありませんが、TPPを支持するかどうかはいい政治家と悪い政治家を見分ける目印としては便利です。TPPに反対するのは、国民の利益より自分の選挙が大事な政治家です。

だから「TPPで日本が滅びる」などという話は嘘です。農林水産省は「TPPでGDP(国内総生産)が年間7.9兆円減る」という数字を発表しましたが、農業生産は4兆円なので、全滅してもそんな影響はありません。「TPPに参加しても輸出は増えない」という人がいますが、これも間違いです。自由貿易は消費者の利益になるのです。これを簡単な例で説明しましょう。

日本では100万トンの米と100万台の携帯電話をつくっており、ベトナムでは米100万トンと携帯電話10万台をつくっているとします。

 ・日本:米100万トン・携帯電話100万台
 ・ベトナム:米100万トン・携帯電話10万台

日本では米100万トンに使う資源で100万台の携帯電話を生産できますが、ベトナムでは10万台しかつくれないとします。ここで日本で米の生産をやめて携帯電話をつくり、米を全量をベトナムから輸入したら生産量はどうなるでしょうか?

 ・日本:米0トン・携帯電話200万台
 ・ベトナム:米200万トン・携帯電話0台

つまり全体では米の生産量は変わりませんが、携帯電話の生産量は90万台増えます。これを比較優位といいます。お互いに得意な分野に集中して、他国から輸入することでみんなが利益を得られるのです。

「輸入が増えるから損する」とか「輸出が増えないから意味がない」とかいうのは、300年前の「重商主義」で、農協以外のすべての人が損します。TPPで輸出が増えないとしても、高い米が安くなり、アジアから安い輸入品が入ってくることで、消費者は絶対に得するのです。