ネット選挙運動解禁にはどのような意義があるのだろうか。その最大は、政治参加の促進である。新聞を購読していないので選挙公報を入手できなかった人々が、候補者の主張を知る機会を得る。今まで立会演説に集まるのは動員された人々ばかりだった。駅に降り立って候補者が演説しているのに気づいても用事があるからと立ち止まれなかった人々に、あらかじめ、予定時刻を知らせることができれば、彼らも演説を聞くことができるようになる。早朝や深夜の政見放送を見られなくても、候補者のサイトで動画を視聴すればよい。ネットを通じて候補者とコミュニケーションを取れれば、政策だけでなく人柄もわかってくる。
障害を持つ人々にも政治参加の機会を与える。新聞を読めない視覚障害者や難読症の人々にとって、候補者サイトの音声読み上げは有効な手段だ。高齢者や聴覚障害者のために政見放送に字幕を付けるのもよいが、候補者サイトで潤沢に情報を提供するのも役に立つ。
第二の意義は、突発的な政治課題への対応である。先の衆議院選挙では、運動期間中に北朝鮮がミサイルを打ち上げたが、どう対処すべきかについて候補者の見解を知ることはできなかった。
どんな公約を掲げたかではなく、どのような政治を実行したかで政治家は評価される。5年・10年の単位で発言や実績がネットにアップされていれば、それを評価に利用できる。政治のPDCAサイクルが確立できるわけだ。これもネット選挙の意義である。先の衆議院選挙では選挙公報がPDFの形で選挙管理委員会のサイトにアップされたが、選挙終了後すべて削除された。削除を通知した総務省は間違っている。
そのほか、選挙活動に多額を使えない人々にも立候補の機会を与えるといった意義もあるが、それ以外に隠された意義がある。それは、ネット選挙運動の解禁によって、政治家がネットに親しむようになるということだ。今まで、ネット(情報通信)は政治家の視野の隅にしかなかった。だから、情報通信は優先すべき政治課題ではなかった。電子行政をはじめ、わが国で情報通信の利活用が遅れている一因は、ネット音痴の政治家にある。それが、やっと修正される可能性が生まれたのである。
2月28日に、デジタルハリウッド大学杉山研究室が主催する「未来フォーラム『インターネット選挙運動』~ネットと政治のこれから~」で、鈴木寛参議院議員、平井卓也衆議院議員、松田公太参議院議員と討論することになった。ぼくはネット選挙運動の意義について話すつもりだ。
山田肇 -東洋大学経済学部-