衆院選の無効判決が出たことにより、「一票の格差」すなわち地域間格差にスポットがあたっている。人口の多い都市よりも、少ない地方のほうが少ない投票数で当選できるため、一票の重みに格差が生じているという見解だ。この地域間格差のほかに、日本の選挙を含む社会システムにはもう一つ格差がある。世代間格差だ。
たとえば、現在の60歳以上の世帯は年金等の公的受益から社会保険料租税などの公的負担を差し引くと4875万円の純受益があるのに、将来世代は4585万円の純損失になる。実に9千万円以上の格差だ。
このようなシステムが成立している一つの要因として、少子高齢化が急激に進んでいるうえに、若い世代の意思が投票に反映されにくいという現状がある。日本は2010年時点で65歳以上の人口が23%を越えた。これは言うまでもなく、世界に類を見ない水準だ。さらに世代別の投票率をみると、60代以上が70~80%なのに対して、20代の投票率は30~40%代と最低レベルで、30代も約50%と次に低い水準だ。20歳以下にはもちろん投票権が与えられていない。結果、60代以上の投票数は全体の40%以上を占めるのに対して、20代は10%未満、20~30代で25%にも満たない。(参考:新経済連盟「選挙に行こう」キャンペーン)これでは、若い世代の意思よりも、高齢層の意思が政策により反映されやすくなることもうなづける。
もちろん、若者がもっと政治と社会に関心をもって、投票に行かなければならない。一方で、少子高齢化が急激に進んだ社会の構造的な問題でもあるわけだ。
そこで、反対があることは承知で一つの案を提起したい。20歳未満の子どもに選挙権を与え、その権利を親が代理行使するという案だ。これは発案者である人口統計学者ポール・ドメインの名前をとって「ドメイン投票方式」とも呼ばれている。父親、母親、子ども2人の世帯であれば、父親と母親が1票ずつ代理、子ども1人世帯であれば、0.5票ずつを代理投票するという具合だ。
これにより、選挙権がないために、0~20歳の利益を反映させにくかったシステムが是正され、より未来に対する投資が政策に反映されやすくなるという考えだ。実際には、親が代理するため、30~50代の投票率が増すことになるが、いずれにせよ、世代間格差の是正に寄与することなる。奇抜な案にも思えるが、実際にハンガリーやドイツではこの方式の導入が議会で本格的に議論されている。
私は、この案の副次的な効果として、20代の若者の投票率も上がるのではと考えている。すなわち、子どもの選挙権を代理する親は、理想的には子どもと相談して選挙に行く。特に、子どもが中学生、高校生にもなるとある程度のことが分かってくるので、「こうこうこういう理由でこの候補者に投票するけどもいいか?」と話しあったり、一緒に投票所に行ったりする。すると、子どもも自分が親を通して選挙権を行使していることを理解し、政治に関心を持つようになる。そうすれば、20歳になっていざ選挙権を自分で行使できるようになれば、自然に投票所に行くことができるという目論見だ。
そもそも、選挙権の行使は、民主主義社会において非常に重要な行為であるにも関わらず、学校ではその実践的な考え方や方法を教えられない。子どもには選挙権がないし、公的機関では政治的なことができないからだ。そのため、20歳になっていきなり選挙に行けますよと言われても、「よく分からないし、それって意味あるの?っていうか、めんどくせ~」みたいなことになってしまう。だからこそ、選挙権を実際に行使できるまで、親子でその意味を一緒に考える過程が必要なのではないだろうか。
親が子どもの選挙権を代理する場合、子どもと一緒に投票所に行くことを義務化するのもよいだろう。そうすれば、選挙に行くことが子どもの頃から自然と身に着くことになる。(子どもは親の選挙権代理を拒否することも可能だ。)私も、子どたちはまだ小さいが、家族そろって近所の小学校である投票所に行くことが、ちょっとした家族イベントになっており、子どもが大きくなってもぜひ続けていきたい。
家族そろって選挙に行こう。そんなところから、日本の未来は少しずつ明るくなるのではないだろうか。理想論に過ぎないかもしれないし、賛否両論があることは承知しているが、日本の超少子高齢社会と世代間格差を考える一材料にしていただきたい。
本山勝寛
学びのエバンジェリスト