「一人勝ち」として、もてはやされた日本マクドナルドが一転して転がり落ちるように「一人負け」に転落してしまったことは、ひとえに企業の論理を優先させ、顧客を忘れてしまうリスクがいかに大きいかを象徴するものでした。しかも外部から観察していると自らの強さがどこにあったのかも見失ってしまったように感じます。
そのマクドナルドがようやく集客の目玉として「チキンてりたま」を投入し、またゴールデンウィーク期間に「バーベキュービーフ」「バーベキューチキン」と、期間限定メニューを立て続けに投入する動きにでてきました。さてこれが日本マクドナルドのV字回復につながるかどうかが興味深いところです。
結論から言いましょう。極めてハードルが高く、難しいだろうと見ています。おそらく日本マクドナルドも2013年の売上予想も前年の+0.6%と控えめな予想になっていることを見ても、まずは失速に歯止めをかけようということでしょうか。
マクドナルド不調がはじまったのは、話題をつくり、話題によって集客し、さらに客単価をアップさせる目玉となるメニューを開発、あるいは投入しなくなった頃からでした。販売促進が、デイスカウント戦略に大きく傾いたあたりからだったのではないでしょうか。
複合的で決めの細かな販売促進の頂点に、話題性のある戦略商品を投入し、変化をつくりだすことによって、マクドナルドの魅力づくりを行い、それによって集客を促し、また客単価を上げる「勝利の方程式」を自ら放棄してしまったのです。なぜ放棄してしまったのかは未だに謎です。
おそらく原田社長の「日本のマクドナルドは世界の中で利益率が低く、米国本社から利益を底上げするようプレッシャーをかけられていた。このためリピーターを増やせるビッグマックの販売を強化して、運営コストのかかる季節限定商品をやめた」という発言が本当のところかもしれません。
マクドナルド原田社長「不評を買い続けたここ最近の施策は、米国本社からのプレッシャーによるもの」 :
日本マクドナルドは、不振の理由を外食産業全体が厳しい、消費者の外食離れが急速に始まった、市場環境の悪化が原因だと説明を繰り返していたのです。それは米国の本社にむけたメッセージだったのかもしれません。しかし、それは事実とは異なっていました。たんにマクドナルドの戦略が失敗していたに過ぎません。そして、戦略ミスの積み重ねが、腫れ物が爆発するように、昨年末から顧客の「マクドナルド離れ」をも引き起こし、大失速につながったのでしょう。
その反省にたってか、今回の「実績ある季節限定商品の販売強化」(マクドナルド)として季節メニュー投入を行ってきたのですが、「実績ある季節限定商品」ということは、裏をかえせば、新規性や話題性が乏しいということになります。
しかも2013年の施策としては、「人気・定番の商品の普及率拡大」、つまり、ビッグマック、フライドポテト、チキンナゲットの売上増を販売促進の第一に掲げているのですが、それらは、ディスカウント以外になにか手があるのでしょうか。客数が増えれば、それらの定番メニューは自ずと売れるはずですが、定番メニューで顧客を集めるためには定番メニューを進化させるというのが王道なので、なにかレシピを変えるとか、バリエーションをつくるつもりなのでしょうか。
マクドナルドから顧客が去りはじめたのは、もっと深いところに原因があるのだと感じます。メニューの質や美味しさを追求するのではなく、ディスカウント、カウンターからメニューをなくす、60秒サービスで実質は無料キャンペーンを行うなどの迷走を続けた結果、顧客の感じる「マクドナルドの魅力」が大きく損なわれてしまったからでしょう。
もっとも重要なことは、マクドナルドの認識と消費者の認識にズレが生じてきていることを感じます。ビジネスではもっとも怖い現象です。ただただ顧客の声を集め、そのとおりにやっていれば顧客が満足するというものではありませんが、顧客が見えなくなってしまうと、売り手のひとりよがりの暴走が始まってしまいます。
カウンターからメニューをなくした理由を原田社長が「お客様の1番のニーズはスピード」だからだと説明しておられますが、顧客が求めているのはスピードだけではないのです。
マクドナルドの店頭からメニューがなくなった理由 原田社長「お客様の1番のニーズはスピード」(ガジェット通信) – ライフ – livedoor ニュース :
もし日本マクドナルドの失速が、米国本社からの圧力が原因となった迷走の結果だとすると、そこには非常に大きな教訓があります。グローバル化といっても、それぞれの国の市場に適応してこそ、ビジネスはうまくいきます。つまりグローバル戦略にはローカライズの戦略が表裏一体となっているということです。
米国市場のように「ボリュームと価格」で評価する顧客を多く抱えた市場と、「ボリュームと美味しさと価格」で評価する市場では自ずと戦略は異なってきます。しかも、比較的棲み分けができている米国市場と、いまだに激しい競争が行われている外食業界、しかもコンビニエンスという他業界との競争にも晒されている日本市場をマクドナルド本社が切り分けて考えられないとすれば、おのずと限界がでてきます。
とくに「失敗の最大の要因は我々の創造力が落ち、顧客に驚きを提供できなかったことだろう」という原田社長の言葉からは、戦略商品の効果を、その商品の短期的な利益だけで否定してしまった米国マクドナルド本社の弱点が見えてきます。
日本マクドナルドは、直営店をFCに切り替え、身軽にして資本回転率をあげる、店舗の改装、ドライブスルーの複線化などをはかって店舗のレベルアップをはかるなどの戦略を進めて来たのですが、しかし肝心のメニューが弱ければ、顧客は離れていくのは当然の結果です。