理想に直線的に進むと現実には弊害がたくさん発生することも多々ある

松本 孝行

投票では育休3年が最多なのに、こぞって皆反対論なので敢えて反論してみる
育休の価値換算は1200万円以上?

本山さんがアゴラで熱心に育休問題について取り上げておられます。私は結婚していないですし独身ですが、育休3年くらいはあった方がいいなぁとは思います。保育園にいける年齢になるまで育休をとれたら、素晴らしいと思いますし、そちらのほうが子育てもスムーズに行くような想像はします。

ただ、理想としては育休は長い方がいいし男性だって積極的に取れるようにしたいところですが、理想と現実の間には大きな溝があり、まっすぐに理想を追求しようとすると現実には逆に理想から遠ざかることが多々あります。


例を上げて考えてみればわかりやすいと思います。現在アゴラでもたくさんの人が主張しているものに法人税の引き下げがあります。日本の企業が競争力を持ち、世界中から企業誘致をするためにも法人税を下げるべきだという話があります。極端な話ですが、ゼロにしてしまえば周辺国よりも日本に企業が多く集まってくるでしょう。シンガポールに目もくれず日本は活性化すると思います。

しかし法人税収が減り、日本の財政規律が悪化します。現在、8兆円近い法人税収がゼロになってしまえば、日本の財政破綻が更に現実味を帯びてしまいます。財政破綻してしまえば法人税ゼロでも、多くの企業は日本にやって来なくなるでしょう。だからその代わりに消費税を上げることで対処しようという案が出てきているわけです。

あちらを立てればこちらが立たずというのが世の中の常です。
経済成長をしないといけない⇒企業が活動しやすい状況を作る⇒法人税をゼロにする
これだけでは他の部分にしわ寄せが来るわけで、そのしわ寄せが来る部分に対してセットで提案をしていかねばなりません(この例で言えば消費税に転嫁することです)。でなければ財政破綻して、経済成長どころではなくなってしまいます。

本山さんの言うように3年の育休を取れるようになること、これは素晴らしいことだと思います。しかし育休を3年とれるような権利が手に入れば、必ずそのしわ寄せというのが発生するものです。それが中島さんが取り上げているように女性が雇用されにくくなるということです。「女性は働かなくていいんだ、家事育児だけしていればいいんだ」という考えならいいかもしれませんが、多くの人は女性も働ける社会の方が魅力的だと思っているでしょう。

であるならば、このしわ寄せされる部分についての対策を考えない限りは提案として現実味がないんじゃないかと思います。具体的に言えば育休3年の権利を付与することによって考えられる、女性が働きにくくなる・雇用されにくくなる問題についての対策をいかに行うか?が重要なのではないでしょうか。また、赤沢さんが育休3年を地方公務員が取った場合、自治体の財政と非常勤職員に対してしわ寄せが来ると書いています。こちらのフォローも必要でしょう。

私も仕事をしていると色々と理想というのはあります。しかし徐々にですが、そう簡単に理想に向かってまっすぐ走れないということを痛感することが多くなって来ました。私は既卒者と呼ばれる方々の就職をサポートする仕事をしたいと思い、独立してフリーランスになったのですが、それだけでは食べていくことができません。既卒者の就職サポートに専念することは私にとっても理想であります。

しかし理想の前に食べて行かないといけない・稼がないといけないという現実があります。自分が食べていけない状態で、就職相談なんて乗れるものではありません。だから一時期は早朝からアルバイトもしていましたし、今ではWebのライティングやSEOを中心にしてできること・得意なことで食い扶持を稼いでいるのです。まぁその理想と現実のバランスについて、時間をどのように使うべきか・資金をどのように配分すべきかは今もどうしたらベストなのかと悩んではいるのですが。

育休3年の政策に話は戻りますが、やはりこの政策自体に無理があると私も中島さんのように思います。理想としてはいいかもしれませんが、デメリットが大きすぎるのです。それならばまずは現在の制度で育休を男性も取れるようにすること、寿退社しなければならない状況の改善、待機児童の解消などを優先すべきではないかと思います。そちらのほうが社会の歪は小さく、また現実的な解ではないでしょうか。

本山さんを批判するわけではありませんが、理想を実現するために邁進しているのに現実には理想から遠ざかっていた、なんていうことにならないためにも、育休3年問題については深く慎重に考えるべきじゃないかなと私は思いました。