昨晩発表されたアメリカの雇用統計を受けて、アメリカの株式市場は急上昇、為替市場も円安に振れました。
3日の米株式相場は続伸した。ダウ工業株30種平均は前日比142ドル38セント(1.0%)高の1万4973ドル96セントで終え、4月11日以来、約3週ぶりに過去最高値を更新した。4月の米雇用統計が良好な内容となり、投資家心理が強気に傾いた。幅広い銘柄に買いが入り、心理的な節目である1万5000ドルを上回る場面もあった。
朝方発表の雇用統計で、労働環境を敏感に映す非農業部門の雇用者数が前月比16万5000人増えた。伸びは市場予想の15万人程度を上回り、失業率は7.5%と前月から0.1ポイント低下した。米雇用環境の改善が続いているとの見方が広がり、運用リスクをとる動きが強まった。
(日経新聞電子版より)
これを受けて、シカゴ・マーカンタイル取引所の先物取引市場では、日経平均先物(6月限)が1万4170円まで買われました。これは2日の日経平均株価(1万3694円)より500円近く高い水準です。
思い出したのが、5月3日の日経新聞です。15面のマーケット面には、市場関係者のマーケット予想が出ていました。
市場関係者は米国や中国など、海外景気に先行き不透明感が広がっていることから上昇テンポが鈍るとの見方が多かったとして、3名の5月中の日経平均の予想を掲載しています。3人の5月中の高値のメドは13800円~14000円でした。
米国経済の見通しとは異なる現実に、わずか1日で、「専門家の5月の予想レンジ」を突き抜けてしまいました。
相場の予想というのは
「日経平均は当面現在の水準で推移」
と言われるより
「日経平均のレンジは13000円~14000円」
と数値化した方が具体的で楽しいものです。
しかし、それが投資判断に役立つかは別問題です。今回の米国の雇用統計は、週前半に出ていた経済データからすれば想定外な結果だった訳ですが、このような経済データを予想し、それから影響を受ける日本の株価の動きを短期的に予想することは、不確定要因が多すぎて不可能だと思います。
それをやっているのがストラテジスト(投資戦略を考えて、儲かる投資アイディアを提供する人)やエコノミスト(経済データを分析・解説して、経済やマーケットの先行きを予想する人)という仕事です。どんなに優秀な努力家であっても、できないことをやらなければならない理不尽さがそこにあります。
マーケットで起こっていることを、後講釈する。例えば、昨日の雇用統計について、今朝解説をする。情報を咀嚼する重要な仕事ですが、これでは評論家になってしまい、ストラテジストやエコノミストの仕事として投資家は満足しません。
今月はどうなる、今週はどうなる、今日はどうなる……次々と寄せられるメディアや投資家からのリクエストに具体的な回答をしなければ、他の専門家に出し抜かれていってしまう。
自信を持って分析できる時もあれば、まったく自信が無い時もあるはずですが、市場は待ってくれません。そんな裏事情には関係なく、コメントや予想レンジはメディアに掲載され、その数字だけが独り歩きしていく。外れても責任を問われる訳ではありませんが、辛い仕事です。
当たる時もあるし、外れるときもある。それが現実です。だから、専門家の相場見通しを真に受けて投資判断をしてはいけないのです。
今、マーケットで何がテーマになっていて、それについてどんな考え方や解釈があるのかを教えてもらう。そのくらいの付き合い方をするのが、個人投資家のスマートなやり方だと思います。
編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2013年5月4日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。