リンクとアプリを俯瞰する三つの手法とその未来 --- 藤村 厚夫

アゴラ

アプリ市場が成長すればするほど、アプリのマーケティングの難しさも、大いなる課題となっている。リンクパラダイムとアプリパラダイムの間に横たわるギャップ。その架け橋として期待される“ディープリンク”を検討する。


iOS 版モバイルアプリのダウンロードが近く500億回に達します(参照 → この記事)。Android 版(除く Kindle 版)も2012年秋で250億回と急増しています(参照 → この記事)。

この巨大な市場を考れば、メディア事業者にとってメディアアプリの投入が避けて通れない戦略課題であることは、間違いありません。

すでに数多くのメディア事業者が投入したメディアアプリが、アプリストアを賑わしています。

問題はその先です。メディアをモバイルアプリ化していく意思決定をしたとして、メディア事業者にはいまだ克服されていない課題が待ち構えています。

それはアプリをどうマーケティングするか、です。

アプリを作ることと同じくらい、それをいかに広く知らせ、いかに効果的にダウンロード(インストール)してもらうか、という課題が重要なのです。

では、アプリのマーケティングのなにが課題なのか?

そのひとつは、アプリが、それまでの Web の文法とは異なる圏域に属していることにあります。

本稿は、“リンク”パラダイムとでも呼ぶべき Web 圏域の文法と異なる“アプリ”パラダイムでのアプリのマーケティング手法について検討します。

そして、その突破口のひとつとして“ディープリンク”について考えていきます。

アプリのマーケティングを考えるのに当たって、Web メディアをプロモーション(マーケティング)する場合とを比較してみます。

下の表を参照して下さい。

deeplinking2

リンクパラダイムとアプリパラダイムのマーケティング

2番目の列を「“リンク”パラダイム」としましたが、Web(の新メディア)のマーケティングにおける習わしと言い換えても良いでしょう。

新設メディアが閲覧無償であるケースでは、マーケティングの対象は、メディア自身、さらにはコンテンツ自身の表示がコンバージョンの対象であることがポイントです。つまり、検索、広告、そしてソーシャルメディアでの共有であっても、その対象をコンテンツそもののにすることが重要です。

これに対し、アプリメディアをマーケティングする際の、“現在見えている範囲”での方程式を整理してみましょう。

アプリメディアのマーケティングの目的が、アプリへとコンバージョンを図ろうとするときの問題は、上記したように、Web のように新設メディア(のコンテンツ)に直接ランディングさせることができないことです。

コンテンツを見ることと、アプリをインストールする行為は違うことなのです。

さらにもうひとつ難関があります。アプリストアの存在です。

iOS であれば Apple が運営する App Store、Android であれば Google が運営する Google Play を経ずにメディアアプリをインストールすることはできません。

ストア内のアプリを見つけだす手立ては、現時点では、その登録データ(「メタデータ」と呼ぶ)に偏っています。同時に、ストア内のおすすめ情報やランキング情報が大きな影響力を及ぼします。リンクパラダイムとは大きく異なって、アプリパラダイムでは検索エンジンの役割は限定的なのです。

GigaOMBeyond App Store search: how to find the iOS apps right for you(App Storeの検索を超えて:いかにして的確にアプリを見出すか)」は、App Storeの検索機能が「(アプリ)名」「(提供)会社名」そして「キーワード」のみにしか及ばないことを指摘します。キーワードには100字という制約が課され、「アプリケーションの説明」は、文字数の制限は弱いものの(最大4,000字)検索の対象とはならないともしています。

このように、リンクパラダイムでは成立していた、ユーザー自らが検索行動の結果、自然にコンバージョンしていくという流れに期待しにくいのがアプリパラダイムなのです。

また、同じ理由からメディアアプリが持つコンテンツに向かって、ユーザーを直接ランディングさせることができません。当該コンテンツを提示するためには、まずそのアプリがインストールされていなければならないからです。

このような現時点の制約からマーケティングを考え合わせたものが、表の「“アプリ”パラダイム」列です。

検索を用いる手法に制約があるため、広告宣伝がクローズアップされているのが現在です。筆者の感覚では、現在のアプリ内広告需要の多くが、アプリマーケティング目的で占められています。なぜそかといえば、PC でアプリの広告を見ても“告知”効果しか生まないからでしょう。

逆に、アプリ内広告でなら、ユーザーをアプリストア内のダウロードページまで運ぶことができやすくなります。また、実際にダウンロードしたかまでを計測する“成果主義”的広告の手法も生まれてきています。

このようなアプリマーケティングとしてのアプリ内広告需要は、当然ながら世界共通の現象です。最近の Facebook 社の業績にもそれが現われています。

Facebook のアプリ・インストール広告は今回の Facebook の四半期決算のスターだった

シェリル・サンドバーグによれば、3800チームのデベロッパーがアプリ・インストールを促す広告を利用し、2500万のダンロードを呼び込むことに成功したという。iOS と Android のトップ100デベロッパーの40%が今年の第1四半期にこの広告を利用した。マーク・ザッカーバーグは、「われわれはモバイル・アプリ・インストール広告から本格的な収入を上げ始めた」と語った。……

ザッカーバーグは「iOS と Android は外部のアプリ・ストアなので、Facebook がそこからどうやって収益を上げるか当初はっきりしなかった。結局われわれはデベロッパーがアプリをプロモーションすることを助けるという手法に落ち着いた」と語った

TechCrunch Japanモバイル・アプリのインストを促す Facebook 広告が大人気─3800のデベロッパーが2500万ダウンロードを呼び込む

Facebook とくれば、Twitter です。同社もソーシャルグラフを活用したインストリーム広告の本格運用を開始しているのです。

そこで、表の3番目の視点に移ります。リンクパラダイムでは“常識”となった感のあるソーシャルメディアの共有を介したマーケティング手法です。

ここで注目したいのは、ソーシャルメディアの中心 Facebook、Twitter それぞれが外部サービスなどとの連携を強化していることです。

たとえば、メディア(のコンテンツ)が OGP(Open Graph Protocol)に対応するメタタグを含んでいれば、そのコンテンツへのリンクを含んだ投稿は、Facebook 内のニュースフィードでは自動的に当該コンテンツのスニペット(グラフィックやテキストを用いた概要情報)を表示します。これを見たユーザーの行動に大きな影響をもたらします。

一方、Twitter は外部サービス(やコンテンツ)の概要をタイムライン内に表示する「Cards」(カード)という連携機能を提供しています。これも Facebook と OGP の関係と同様の効果をもたらします。

リンクは、そのリンク先へとジャンプしてみなければその価値を表せません。

Facebook や Twitter ではリンク先へ移動せずとも、そのリンク先にあるコンテンツの魅力を伝える仕組みの強化に取り組んでいるのです。

このことは、アプリパラダイムに移行すると決定的な意味を持ちます。

通常、Webやアプリから、外部のモバイルアプリ内のコンテンツを直接リンクすることはできません。メディアアプリの提供者が、ソーシャルな口コミを得ようとコンテンツ(記事)ごとにソーシャルメディアへの投稿機能を持たせても、アプリをインストールしていないフォロワーや友達にとってはほぼ無意味でした。アプリがなければコンテンツを表示できないためです。

そこで、浮上するのが「ディープリンク」というアプローチです。

簡単にいえば、アプリ内のコンテンツに対するリンクを機能させようとする試みです。

The Next Web の「Google+ platform adds deep linking for iOS and Android apps, letting them complete the sharing loop(Google+プラットフォームは、iOS および Android アプリ向けにディープリンクを追加——共有ループの完成へ)」という記事は、Google+がその API でディープリンクをサポートしたと伝えています。これを活用すれば、アプリ内コンテンツをシェアした場合、そのリンクを他のユーザーが“タップ”すると(そのアプリをインストールしていない場合)まずアプリのインストールをした上で、シェアされたコンテンツが表示されます。もちろん、アプリをすでにインストールしている場合は、自動的にアプリが起動してコンテンツを表示するものです。

Google はリンクパラダイムで検索エンジンが果していた役割を、アプリパラダイムにおいても実現しようとしているのでしょう。

Twitter もこの点で意欲的です。@ITツイートからモバイルアプリにユーザーを直接誘導:Twitter Cards に新機能の『ディープリンク』、ツイートとアプリを連動」が“カード”の機能拡張について報じています。

米 Twitter は4月2日にサンフランシスコの本社で開いた開発者向けイベントで、「Twitter Cards」の新機能として、ツイートから自分のモバイルアプリに直接ユーザーを誘導できる「ディープリンク」を発表した。新たに3種類の Twitter Cards も加わった。……

新機能のディープリンクは、ユーザーがツイートのリンクをタップすると、アプリをインストール済みの場合はアプリ内のコンテンツが参照でき、インストールされていない場合はダウンロード画面が表示される仕組み。

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Twitterに実装されたアプリ・ディープリンク(引用@IT記事より)

このアプリ内コンテンツへのディープリンク機能が普及することは、一般のモバイルアプリのマーケティング全般に期待できることはもちろんですが、特にメディアアプリにとって重要です。ニュースなどのメディアコンテンツは、そのひとつずつが他人に伝えたい潜在的な口コミ要素を含んでいるからです。

述べてきたように、アプリパラダイムの“制約”が徐々に取り払われ、リンクパラダイム下で優勢だった検索とソーシャルメディアの役割が復権することでしょう。特にソーシャルメディアとディープリンクの組み合わせが、新たなマーケティング上の方程式となっていくと筆者は想定します。

(藤村)

編集部より:この記事は「BLOG ON DIGITAL MEDIA」2013年5月7日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった藤村厚夫氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はBLOG ON DIGITAL MEDIAをご覧ください。