高齢化社会で解雇規制撤廃するとこうなる

田村 耕太郎

失業率がここ4年で最も低下し、7.5%となったアメリカ。この雇用改善で株価は史上最高値を記録している。しかし、その雇用改善でも苦しむ人たちがいる。50歳以上の人々だ。今でも50歳以上の失業者が再就職できるまで、平均で1年かかっている。

 


アメリカの硬派TV局PBSの特番「再就職に悩むシニア失業者」が興味深かった。あるシニア男性は、再就職が見つかるまで8ヵ月以上、いつものスーパーより30キロ以上離れたスーパーに買い物に出かけていたという。毎日隣人からかけられる「職は見つかったか?」という声がプレッシャーだったという。

 PBSが分析していた、シニア再雇用が難しい要因は、採用側が以下のように考えているからだという。

● 給与が高い年齢層である。
● 新しいことを学ぶ能力に乏しい
● 身体的なスタミナが不安
● あと何年働けるのか。
● 病気がちで医療費負担が増え、生産性下がる。
● 年齢差別で訴えてくる。

 というような理由だった。どれも、一般的には合理的だと思う。解雇された場合、年齢差別で訴えてくるのは、ほとんどが高齢者だという。ある女性は「最終面接の時に、解雇されても年齢差別で訴えないとの誓約書を書くことが最終条件となった」という。

アメリカは年齢差別禁止である。そもそも解雇規制撤廃と年齢差別禁止はセットである。できる仕事に応じて採用の可否と報酬が決まるべきなのだ。それなのに、なぜ年齢差別のような雇用が行われているのか? 当たり前だが、面接でリクルーターは、必死で相手の年齢を探るのだ。

俳優をしていて、大学卒業が15年遅れたある男性は「面接会場に入るなり、面接官がガックリするのがわかった。私の履歴書には、卒業年次の割に老けていることがわかったからだ」と言う。もっと若造りしていったら?と突っ込みそうなったが

481社と面接したものの、不採用で失業中の別の女性は「普通なら売りにする経験年数を半分くらいにした。そう再就職コンサルタントから指摘された。そうすれば若く見られるから」と言う。

前述のごとく、当たり前だが、「会社は仕事ができる人を望む」わけだ。年齢は二の次であるべきだ。しかし、どの国でもその目利きは難しい。よって、誰が見ても納得できる基準を自然に造ってしまっておりその一つが年齢なのだろう。一般的には経験豊かだといっても、シニア層は、厳しい競争社会であり、急速な技術革新が進むアメリカでは、体力がない、考えが古い、病気がち、と偏見を持たれているようだ。

 銀行の支店長としてクビになり、長く苦しい失業期間を経て、中小金融機関に再就職できたある男性は、賃金は15%下がったという。しかしそれも、「仕事に行けるだけでワクワクしている。今の立場がどんなにもろいか知っている。退役軍人や身体障害者には特別プログラムがあるのに、なぜ高齢者にないのか?」と言っていた。

高齢化が急速に進む中、アメリカ同様の解雇規制撤廃の議論が進む日本にとって、シャレにならない内容であった。日本なら年齢差別撤廃してもあらゆる手段で年齢を探るだろう。ただ、世界に出れば、若く見られがちな日本人は有利であるとも思った。

次回は日本でならどうなるか考えてみたい。