核放射線--敵か味方か? その2 原子力への恐怖を取り除く試みを

GEPR

photo放射線についての公的な理解を促進する科学者グループ

(写真はウェイド・アリソン オックスフォード大学名誉教授)

その1から続く(GEPR版

今起こっている問題

近代生物学の知見と矛盾するこの基準は、生物学的損傷は蓄積し、修正も保護もされず、どのような量、それが少量であっても放射線被曝は危険である、と仮定する。この考えは冷戦時代からの核による大虐殺の脅威という政治的緊急事態に対応したもので、懐柔政策の一つであって一般市民を安心させるための、科学的に論証可能ないかなる危険とも無関係なものである。国家の安全基準は国際委員会の勧告[8]とその他の更なる審議[9]に基づいている。これらの安全基準の有害な影響は、主にチェルノブイリと福島のいくつかの例で明らかである[10]。

  • 福島から放出された放射線により誰も死んでいないという事実にも関わらず(実際に重大な放射線に起因する犠牲者はいなかった)、この事故はIAEA(国際原子力機関)により最高のレベル7に分類された。2週間以内に死傷者は出ないと予測されたが[11]、WHOがそれを確認するまでに2年近くもかかったにもかかわらず、慎重を期して言葉を濁し[12]、その間、日本やその他では重大な社会的経済的被害が続いた。
  • 放射線の恐怖による福島での更なる死者数は、強制避難の結果として高齢者だけでも1000人を超えることが確認されている[13、14、15]。これらの死は、がんを引き起こすとして知られている1%未満の潜在的放射線被曝を避けるためによるものである。自殺、アルコール依存症、家庭崩壊、子どもの夜尿症などもあるが、これら全ての症状は極度の社会的ストレスによるものである。
  • チェルノブイリ事故の20年後に、遅まきながら、主要な健康への影響は、強制避難と住民を目に見えない放射能の「のろい」に苦しむ「被害者」とレッテルを貼ったことに起因した精神的なものであると報告された。国際的なレポート[16]で説明されているにも関わらず、この有益な教訓は福島では無視された。
  • 2011年4月4日、 福島の原発を運営する電力会社である東京電力は1万1500トンの放射能汚染水を海に放出した。この水が、基準で「安全」とされる100倍濃度の放射能(1リットルあたり100Bq)を含み、また、この水は完全に安全だ、と発表した[17]。この発表は一般市民の信頼を破壊したが、それぞれの声明は事実であり、基準が全く不適当であるのだ。単純な計算で、3ヶ月間このような水を毎日飲むのは、2回のCTスキャンと同量の被ばくであることがわかる。
  • 2011年7月、日本政府の規制で「食品の放射能汚染」が定義された[18]が、その趣旨は、3ヵ月間汚染された食品1トンを消費した場合、同期間での1回のCTスキャンに等しいというものであり、この規制は不合理に規制的であることを示している。後に、一般の人々の抗議を受けこの規制は「5倍に強化」された。ノルウェーでのチェルノブイリ後の同様の規制は数ヶ月後に[19]「10倍に緩和」された。
  • (編集部注・ノルウェーの食品衛生基準は、1986年4月に起こったチェルノブイリ事故の後で、同年6月に1キログラム当たりの放射線量を600ベクレルとした。これはEUの勧告に基づくもので、同程度の放射線量基準を採用する国が多かった。ところが、トナカイ肉を食べる北方少数民族のサーミ人などが、伝統的食生活ができなくなると反発。同年11月まで一部食品は6000ベクレルまで緩和された。ちなみにこの基準でも、放射線による健康被害は観察されていない。日本では、今年4月から食品の安全基準を1キログラム当たり100ベクレルと定めた。これによって、福島や東北の農作物の検査コストが上昇、流通が妨げられている。)
  • チェルノブイリ後、ギリシャのみで放射能の恐怖によると考えられる中絶が2000件増加した[20]。
  • 2013年3月現在、2基を除く全ての日本の原子力発電所は停止しており、輸入された化石燃料で代替されるエネルギーは日本経済と環境に深刻な結果をもたらしている。これらは全て科学的に確認できる利益がないのに、である。その他の国とともにドイツとイタリア、スイスは、さまざまなタイムスケールで同様の行動計画をとることを決定した。世界経済と気候への影響は、おそらく将来の世代により無謀だと判断されることになるだろう。

2011年日本では、1リットルあたり数百ベクレルのセシウム137による汚染が社会不安を引き起こした。1987年ブラジルのゴイアニアで、その青色の光に引寄せられ子どもたちが荒地で余剰50TBq(50兆ベクレル)のセシウム137源を見つけ、2週間それで遊んだ。放射能により2~3週間のうちに4人が死亡し、28人が放射線熱傷により手術を必要とした。250人が被曝し、後年がんになったケースが1例ありその後治療された。IAEAにより更なる犠牲者は報告されていない。日本の一般市民のセシウム137による被曝は最大でもこの1000倍少ないものである。

危険に直面した際の「恐怖か研究か」の選択

人が最初に火を使ったときそれを危険だと感じた。炎は容易に燃え移り破壊が広がる。動物は逃げたが、人は恐れを抱いたであろうが、頭脳を使って研究し学んだ。火を用いることに反対した者と、実験し研究した人々の間に、時には喧々たる議論が交わされたに違いない。火の使用を反対する党派には、火は死や破壊を招くなど多くの説得力のある主張があっただろう。しかし彼らの提案は支持を失い、彼らは生ものしかない家と寒くじめじめした生活に戻っただろう。

これは重要な結果である。その危険にもかかわらず、火がなければ人類の文明が繁栄することはなかっただろう。現在の原子力技術についての見解の不一致は、ひとつの著しい点において異なる。少なくとも火災や道路交通と比較して、危険がないことである。福島において原子炉は破壊されたかもしれない。しかし放射線から重大な健康への有害な結果はなかった。

原子炉が全破壊されたチェルノブイリでさえ、直接放射線に起因した死は50人未満であった。皮ふがんによる放射線死は現実にあるし、それは確認可能で多数存在しているが、活動家は無視する。原子力事故による放射線死は、疑惑のLNT仮説に基づく理論上の幻以外は、ゼロあるいはわずかである。このように、その昔、火の「反対者」が安全性の議論を熱心にしたであろうことに比べ、今日の原子力の「反対者」はそうしない。

放射性廃棄物とテロリストによる核の脅威はどうだろうか。これらは放射線が危険であるという範囲で危険なだけある。放射線の危険性が過大評価されてきたならば、廃棄物そしてテロリズムについてもより少ない問題となる。今まで市民は核廃棄物とテロリズムの脅威を限りない恐怖としてみていた。これは科学によって証明されておらず、誤りである。

問題は一般市民の不安とパニックである。核廃棄物はやっかいなものではあるが、火やバイオ廃棄物に促される病気のように拡大、感染しない。原子力エネルギーは凝縮されているため、ほとんど燃料が使われず、そしてほとんど廃棄物はつくられず、その廃棄物の量は化石燃料のおよそ100万分の1にすぎない。

放射性廃棄物は、冷却、(未使用の貴重な燃料保持するため)再処理し、数年後に埋める必要がある。毒性が無期限に持続する多くの化学廃棄物の取り扱いより大変な仕事ではない。核廃棄物や原子力発電所廃炉に惜しまず与えられる努力と支出は減らされるべきで、たとえ既得権益を受ける人々が異論を唱えるとしても、コスト削減は相当なものとなるだろう。

人類の採用すべき合理的態度

では原子力技術に対する我々の姿勢はどのようなものであるべきだろうか?

原子力「反対者」の要請に従って原子力を使わないならば、我々のこの惑星、地球における前途は動物と同じようなものとなり、人口も激減して低い生活水準となるだろう。我々は、「人生に恐れるべきことなど何もありません。ただ理解すべきだけなのです」というマリー・キュリーの助言に従い、私たちの社会をよりよくしなければならない。石器時代の祖先が火でしたように、我々も学習し知識を応用しなければならない。祖先たちは両論のあるジレンマに直面したが、今の我々よりもよりよい意思決定をした。過去でそうであったように新たな繁栄は科学の革新によって起こるものだが、通常は権力にある者の科学の理解は不十分である。

最初にLNT仮説の名残を捨て、賢明な安全機能を備えた安い原子力技術を取り入れる国が、大きな報酬を得るだろう。そして我々はそのようなイニシアチブに参加すべきである。電力のみならず、この技術は、淡水化により真水を無制限に、そして冷凍することなく放射線照射による無害な食料保存により安価な食料を提供することができる。経済的な拡大のために世界はこうした機会を必要とするが、ALARAとLNTの考えが立ちはだかる。18世紀の偉大な経済学者アダム・スミスは「科学は熱狂と迷信に対する偉大な解毒剤だ」と述べた。原子力への恐怖はそのような迷信であり、厄払いの機が熟したのだ。

しかし、さらにもう一歩進まなければならない。運動でみられるダメージと細胞の反応は日光と核放射線のそれと類似している[2]ため、すでに観察されているように[21]、適応により低レベルの放射線は全身免疫を強化していると予想される。この領域の既存の経験に基づき、広くそのような臨床処置を利用できるようにするため、更なる研究が必要である。当然、良性の化学物質としての低レベル放射線に対する患者の信頼は必須だ。

より持続可能な未来への結論

人類は、初期の時代にそうしたように、競合する危険がある世界で生き残る可能性を最大にするためその知性を使わねばならない。それには、下記のことに努力を尽くすべきである。

  • 核放射線が、医療、二酸化炭素を発生させない電力、淡水化や食品保存を通して社会的に広く便益となることを人々(そしてメディアに)啓蒙すること。信頼を築くにはこの啓蒙は行政や産業界からではなく、利害関係を連想させない、医療、大学や学校の教師を通してされるべきである。
  • 大規模なガスやバイオマスの燃焼発電を終わらせることを含め、環境のため化石燃料の排出を減らすために、既存の設計による原子力発電所の建設を滞りなく行う。
  • 放射線安全基準に関する国際勧告は、その他の従来からの社会と個人へのリスクとバランスのとれたものに変えるべきである[22]。国の基準は、放射線治療を拒否するよりもむしろ受け入れる決断のように、時には一番適切なことはより高い放射線暴露量を選ぶことであるということを認めなければならない。原子力事故が起きた際、決定がなされる前に、大規模な避難による潜在的な犠牲と原子力発電所を閉鎖し代替化石燃料を燃やすことによる環境への影響は、放射線からのすべての致命的な危険と比較されなければならない[23]。同様の検討が通常の産業の安全に関して適用されるべきだが、現在そうなっていない[22]。
  • 放射線の危険が放射線生物学で立証できないならば、線量しきい値が定められ、人々にその意義が説明され、その適正な暴露量が法律によって定められるべきである。実証は、ALARAやLNTによる単純な推定や、一般市民の恐れを和らげたいという政治的な願望に基づいてはならない。今日、100mSv以下の急性被曝で、事実上の危険はないことが知られている[10]。慢性あるいは長期にわたる放射線量率の例については、自然放射線が高い地域の住民と放射線にかかわる事業の従事者においてがんリスクの増加は見られない[24、25]。被曝量が高く相当のリスクを示すのは放射線医療を受ける患者の末梢組織と「ラジウム文字盤塗装職人」の医療データである[26]。これらのデータは、1ヶ月あたり100mSvという被曝量しきい値と一致している[10]。国際的な勧告は社会的ストレス、核廃棄物、廃炉をめぐる過大な懸念と安全性を向上することにつながらない費用のかかる規制から発生する法外な設備費用を減らさねばならない。
  • 適応の利用(ホルミシス)によるがん治療の低線量慢性電離放射線(LDR)の利点を臨床研究でさらに探求する。
  • 次世代核分裂発電所の設計および核融合発電所の研究開発。

脚注:
[1] Warburton et al.
[2] Fogarty et al.Environmental and molecular mutagenesis 52, 35 (2011).
[3] Center for Disease Control and Prevention  疾病管理予防センター(米国保険社会福祉省の機関)の統計
[4]あまり実施されていないが、人工紫外線、日焼マシンのための規制もある。論文

[5] Feinendegen, Pollycove and Neumann in Therapeutic Nuclear Medicine. Springer (2013)
http://dl.dropbox.com/u/119239051/Feinendegen-2012_Hormesis-by-LDR_Therapeutic-Nucl-Med.pdf
[6] Although radiotherapy doses are usually quoted in mGy, these are the same as mSv for most practical purposes. 通常、放射線療法の暴露量はmGyで引用されるが、ほとんどの実質的な目的にはmSvと同様である。
[7] 論文 
[8] UNSCEAR (原子放射線の影響に関する国連科学委員会) およびICRP (国際放射線防護委員会). 報告書103;2007年勧告(Report 103: 2007 Recommendations.)
[9] その他の委員会 IAEA, WHO, BEIR, NEA, NCRP,等.
[10] 更なる議論 
[11]BBCニュース
[12]WHO報告
[13]報告書 
[14] Ichiseki, H. Lancet 381, 204, (2013)
[15] Yasumura, S. et al. Public Health 127, 186-188, (2013).
[16] UN Chernobyl Forum, WHO
[17] 東京電力ホームページの発表(英語)
[18] 日本首相官邸ホームページの発表(英語)
[19] Harbitz at al.
[20] 論文報告書
[21] 論文 
[22]放射線安全方針の失敗の新しい証拠
[23] 福島では、最初の1~2週で、避難者は帰還したほうがよかった。
[24] 論文 
[25] 論文  カナダのデータに訂正:
[26] Rowland RE 注釈入り(2004年)