共通番号法案が衆議院を通過した。前の記事にも書いたように、共通番号のポイントは、単に番号を共通化することではなく、行政サービス間での情報連携を実現して国民利便の向上に資することである。法案の早期成立に期待する。
情報システムは間違って利用されると社会的な損失をもたらす。そこで、共通番号では、情報漏えいに対して技術的対策を取るのに加えて、漏えいした者への罰則や特定個人情報保護委員会の設置が予定されている。自動車交通が道路交通法で律せられるのも、包丁の利用が銃刀法で律せられるのも、社会的な利便とリスクのバランスを取るためであり、番号法案も同様である。
衆議院通過を伝える朝日新聞には、このバランス意識が欠けている。特に、『流出の恐れ 会社からも』という記事には否定的なことしか書いていない。メリットとデメリットを整理したという表には、「政府が個人情報を管理しやすくなり監視社会につながるおそれがある」「番号を使って本人になりすまし、年金をだまし取るなど悪用のおそれがある」などとあるが、本当だろうか。
そもそも、共通番号が対象とする社会保障・税・災害対策の行政事務では、すでに、個人の大事な情報の管理が国家に委ねられている。それを「個人の大事な情報の管理を国家に委ねるというとてつもない枠組みが構築される危険」と批判する意味が分からない。ましてや番号さえわかれば年金が騙し取れるようになるとは、日本の行政はそんなにいい加減なのだろうか。
なお、一面記事に「共通番号が広く使われている米国では」とあるが、この書きぶりでは、読者は共通番号と同じものが利用されていると誤解する。米国では社会保障番号が広く利用され、多くの問題も起きてきた。そこまでは間違いないが、米国の成功と失敗を教訓にして提案されているのが、わが国の共通番号である。朝日新聞は読者をミスリーディングしたいに違いない。
僕らが組織した電子行政研究会では、衆議院通過を歓迎し早期成立を期待する声明を発表し、自由民主党IT戦略特命委員会(平井たくや委員長)に届けた。
山田肇 -東洋大学経済学部-