官僚の世論形成術 --- 岩瀬 大輔

アゴラ

金曜日の朝。これから「一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会」に出席する。

火曜日の夕方。事務局の方が論点ペーパーをもって事前説明にしてくれた(全委員を手分けして回っている)。「まさか『一類はテレビ電話義務付け』とかないですよね」と確認したところ「いやいやいや、それはないです」との回答。


木曜日の朝。日経新聞を開いてびっくり:

厚生労働省は一般用医薬品(大衆薬)のインターネットでの販売を巡り、副作用の恐れがある薬も含め全種類を認める方向で最終調整に入った。薬の大量販売の禁止のほか、販売時に薬剤師とテレビ電話を通じてやり取りすることなども条件とする。(2012年5月9日)

あれ、これって金曜に議論するんじゃなかったの??? 自分がこれから参加するはずの会議の「結論」が事前に新聞で示されると、やや拍子抜けする。

10日の検討会では、消費者と薬剤師との「対面販売の原則」をネット上でも実現するため、テレビ電話を通じたやりとりの義務付けを提示する。素案には「機 能の水準が高いものであれば、店頭での対面に準じた情報収集・提供が期待できる」と明記。光回線による高速通信や高精度の映像を送信できるテレビ電話の導 入を求める。

やっぱり「テレビ電話義務付け」になっている……個人的には、テレビ電話はまだ国民生活に十分普及・定着したとはいい難いので、これを条件とすることは適切でないと考えている。年に4回くらいスカイプ使いますが、慣れてないと不便そうだ。それとも、スマートフォンだと随分と使いやすくなって、皆さん使いこなしているのだろうか。

一方で、厚労省も何とか着地させるために、反対派の薬剤師会や医師会、チェーンドラッグストア協会、そして推進派のネット系の双方が合意できる落とし所を探っていることも理解を示したい。検討会であっても結論を出せずに決裂してしまうと、宙ぶらりん状態になってしまうからだ。

確かに、この案でも厚労省としては反対派から大きな譲歩を引き出したつもりだろう。

厚労省がこれまで示してきた販売ルールの考え方では、「全種類の販売容認」と「第1類と第2類の一部の禁止」の両論を併記してきた。10日に開く新ルールの検討会で示す素案では両論併記を撤回。全種類の大衆薬の販売を容認する方向だ。

そして木曜にこのようにフライングで日経記者に説明したのも、両当事者に対して事前の期待値を下げることや、最初の感触を探るためだろう。「リークはけしからん」というのではなく、なんとか合意形成に導こうと苦心している姿勢と理解したい。

「これで宙ぶらりんになって、例えば政治主導で規制をされて、ネット側が訴えて、また事業仕分けで岩瀬さんとやりあうとか、僕らもやりたくないですから」

とはオフレコで言ってないですよ、事務局の方。いや、言ってない。

推進派は「最高裁判決があるのだから」と強硬な主張をするだろう。一方、反対派は同様に「あくまで対面原則」を強硬に主張し続けるだろう。どちらが正しいかは神学論争であり、政治的には双方が妥協をして合意に至る必要がある。

今日の検討会では、そんな歩み寄りの姿勢が双方から見られることを期待したい。「3本目の矢」でもある規制改革の、象徴であるのだから。


編集部より:このブログは岩瀬大輔氏の「生命保険 立ち上げ日誌」2013年5月10日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方は岩瀬氏の公式ブログをご覧ください。