成功するオーベルジュでは、お客様は「神様」ではなく「王様」と考える --- 内藤 忍

アゴラ

昨日ブログに書いた、壱岐の「海里村上」もそうですが、地方にあるオーベルジュは、オーナー経営で運営されているものが多くあります。


今まで行ったホテル、オーベルジュは「Viaggio」にまとめて掲載しています。富山の薪の音、松山のTOBEオーベルジュ、そして今回の壱岐の海里村上。どちらのオーベルジュもオーナーの個性が宿の魅力にダイレクトにつながっています。

その中でも今回お会いした海里村上のオーナーの村上さんは特に個性的な方でした。対談の後、夕食をご一緒しながらビジネスに関するお話をお聞きすることができましたが、自分が求める最高の宿を経営感覚とバランスさせながらやっていくという強い信念を感じました。

村上さんが話された中で印象に残っていた言葉に

「お客様は神様ではない、お客様は王様だ」

というのがありました。神様というのはすべてに絶対的なポジションであるが、王様は必ずしも正しいとは限らない。つまり、オーベルジュだからと言って、顧客の声を絶対視してはいけないという意味だと思いました。

オーベルジュというのは、高い顧客満足度が求められる業態です。施設を高いクオリティでメンテナンスし、接客技術から食事のレベルまで手抜きが許されません。しかし、全ての顧客のすべての要望に100%応えていては、恐らく経営は成り立たなくなります。

清潔感のある部屋や満足度の高い料理といったものは当然の前提条件ですが、そこにどんな付加価値を追加していくかは、顧客ではなく経営が判断することです。

例えば、温泉を掘るのには資金が必要です。あるに越したことはありませんが、他の価値で勝負できるなら敢えて温泉なしで勝負するという選択肢もあるのです。

また料理も高級食材の価格は上昇傾向にあると言います。特に、海鮮は年々漁獲量が減っているものもあり、安定した品質を保つのには高いコストがかかるのです。どうやって食材のコストをコントロールしながら、満足できる料理を提供するかは宿の腕の見せ所です。

オーベルジュとは顧客に選ばれなければ経営が成り立ちませんが、一方でその個性がお客さんを選んでいるのだと思いました。

決して安くはない宿泊料金を払って、わざわざ遠くまでやってこられるような熱狂的なファンのお客様だけが集まってくるのです。全員に満足できる宿ではなく、ファンの人たちに満足してもらえれば良いのです。

これはオーベルジュに限らず、高付加価値ビジネスには共通する重要な考え方だと思いました。マニアックな世界になればなるほど、万人に受け入れられるものよりも、そこにしか無い価値が重要になる。それを決めるのはお客様ではなく、提供者の強烈な個性なのです。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2013年5月16日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。