そろそろ我慢の限界に来ているやろ。ええ加減、陰謀論とやらを見せんかいという、読者の皆様方の怒りに満ちたまなざしを感じる。こら、何とかせんとまずそうや。
陰謀論というのは、何か原因のハッキリしないことを、陰に隠れた誰かの悪意で説明する仮説のことや。一般的に、悪意の主体が意外なものであればあるほど、おしゃれな陰謀論に仕上がる。そやけど、受ける陰謀論がお望みなら、主体は平凡な方がいい。
ユダヤ結社、フリーメイソン、CIAに日教組……定番商品がずらっと並ぶ。ワシも陰謀論業界での経験は浅いほうやから、最近流行の「原子力村」でいってみようと思う(「滑らない陰謀論の作り方:近著予定」より)。で、村人たちが何をしたか、というと「福島事故の本当の原因を隠蔽しよった」という話や。
「その2.激動陰謀編」にも書いたが、福島の事故は津波によっておきた。というのが定説になっている。ところが、事故後の各地の原発の安全点検の中心は、活断層になってしまった。これ、何かおかしいやないか。
福島事故によって、新たに活断層の危険が認識されるような事実が出たわけでもないようやし、震災で福井や玄海にまで断層が広がったわけでもない。3.11の前と後とで、原発敷地内の活断層の安全に関する認識を変える必要は別にないやろ。
こういう場合、利権がらみで「危ない、危ない」と言い出すやつがおっても不思議やないけど、活断層を引きずりだして、再稼働を止めてみたり、廃炉を量産しても、得をするやつは皆無のはずや。まさか、産油国やフランスの廃炉屋が黒幕とも思えへんしな。
だいたい今の自民党政権は再稼働命、ワッショイワッショイのアベノミコシや。穏便かつ高圧的に研究者集団を黙らせることなど、たやすいことやろ。ところが、島崎センセ以下、どこでも断層鑑定団、元気いっぱい日本中駆け回って、原子炉狩りを楽しんではるようや。大飯ぐらいで、おかずはもんじゅ、今日の泊まりはどこかいな。
話を福島に戻すで。事故当初から、ワシにとって腑に落ちないことが二つある。ひとつは、原子炉建屋を吹き飛ばした水素は、どうやって炉心から来たのか、ということや。
津波を浴びようが、全電源喪失でメルトダウンしようが、圧力容器(と配管類)が壊れない限り、炉心で発生した水素が建屋に漏れ出すことはないはずや。どこか漏れてるはずや。
さらに、1号機の場合、全電源喪失から2時間もせんうちに、建屋内の放射線が急上昇していること、作業員が水漏れのような音を聞いていること、以上二つから考えたら、最初の地震で、少なくとも1号機の一部(おそらく配管)が壊れて冷却水が漏れ出した、と考えてるのが自然なんやないやろか。
次に腑に落ちないのが、高圧鉄塔の倒壊や。平常時の福島第一は東北電力からひいてきた電気で運転されていた(料金滞納したらメルトダウンかいな)。
3.11……地震で送電鉄塔が倒れたのが悪夢のはじまりやった。けどそう簡単に倒れるもんやろうか。住宅密集地がまともに被災した阪神淡路の例でも、高圧鉄塔が倒壊した例をワシは知らん。それどころか、普通の電柱でも滅多なことでは倒れへん。重心が低いんやから当然と言えば当然の話や。
ところが、福島第一の鉄塔は地震一発で倒壊した。まさか原発が安物使ってるはずがないから、敷地内で、よほど変なことがおこったんやろな。
そこで、一つ考えられるのが、地盤の流動や。地震の揺れで地表の一部が、ときには上に建物を載せたまま水平に移動する。阪神淡路のとき、神戸市内の調査で、マンションが渡り廊下のところで、ちぎれているのも見たことがある。この一件、同行した建築屋さんらが論文にも書いているはずや。
これは、地震の揺れが原因で、地表でだけおこっている現象やから、いわゆる地震断層とは違う。どちらかと言えば、地滑りに近いものや。ズレがどこでおこるかは不明やが、断層なり地滑りなりの既存の亀裂があれば、そこが切れ目になってズレるのは自然な話や。
さて、そろそろ、これまでの材料を一幅の陰謀論に仕上げるとしよか。
- 地震の瞬間、福島第一の敷地内の些細な断層に沿って、地震によって地盤がずれる。
このため、高圧鉄塔が倒れ、各原子炉の配管にも損傷が入り冷却水が漏れ、メルトダウ
ンに向かう。 - 事故から1年以上経過し、敷地を片付け始めて、地盤の異常に関係者が気づく。
- 大慌てで、全国の原発敷地の断層の洗い直しが始まる。
もし、このシナリオが本当なら、それを公表することは、原発の再稼働をほとんど不可能にしてしまうやろな。なにしろ、千年に一度の津波やなくて、数10年単位でおこる通常の地震で原発が壊れることが、はっきりしてしまうからや。
よって対策は秘密裏に行うしかない。全く、御苦労さんな話や。
さて、ワシのような物静かで学究的な男の書いた陰謀論。読んでもらえますかのう。
ヨハネス 山城
通りがかりのサイエンティスト