数年前、新自由主義という言葉が一時期はやった。
民営化や規制緩和による経済成長、行政改革のことを指すようだが、もともとは一部の左翼学者が使い始めた言葉だ。郵政民営化に際して、既得権を失うことを恐れる人達が飛びついて日本でも広まったように思う。
派遣切りの際にも「どこかの誰かが悪いことを企んだ結果に違いない」とばかりに大手メディアがさかんにこの言葉を使っていた記憶がある。
筆者自身も「彼ら派遣労働者は新自由主義の犠牲者ですよね?」と言われ「いや、規制緩和してなかったらそもそも彼らの多くは職についてなかっただろうし、新自由主義だろうが共産主義だろうが不況が来れば仕事は無くなるもんですよ」と言ったらボツにされたこともある。
さながら、世界平和を脅かす危険思想といった扱いだった。
もちろん、実際はそんな体系的な学問があるわけではなく、単純に後発の新興国にキャッチアップされた国が、より成熟した社会に脱皮するために、産業構造を転換し、行政システムを効率化するだけの話で、ヨーロッパなんて何十年も昔からやっていることだ。
最近メディアで言わなくなったのも、広告費がカットされて早期退職などのリストラを大手メディア自身がスタートしたからだろう。トップの価値観なんてなんの影響も無くて、単純に売り上げが減ったら人を減らす、それだけの話だと理解できたようだ。
とはいえ、ヨーロッパにもやっぱり新自由主義というフィクションで飯を食っている政治家というのはいて、年々少なくなっていく支持者(多くは高齢者)向けに「グローバル企業の横暴を許すな」とか「新自由主義反対」といっててら銭を投げてもらって生きている。
その多くは野党の側で細々と伝統芸能みたいにやっているだけなので問題ないのだが、たまに、フランス社会党のように、何かの間違いで政権を取ってしまうこともある。
そういった場合、何が起こるか。
国内に出来るだけ多くの雇用と投資を集めるには、当たり前のことをやるしかない。
企業が人を雇いやすいように解雇規制を緩和し、手厚すぎる社会保障をカットすることだ。ついでにいうとオランド氏は消費税の引き上げもやっているから、フランス史上、最強の“新自由主義者”と言えるかもしれない。
前の社会党大統領だったミッテランも、大統領就任後に豹変して規制緩和や社会保障カットといった構造改革を推進してフランスを立て直したが、どうもフランスという国は、ここ一番で痛みを伴う手術を断行する役回りがなぜか社会主義者にまわってくる運命らしい。
というわけで、たぶん本人はめちゃくちゃ貧乏くじ引いた気分だろうが、今後もガシガシ“新自由主義政策”を推進して頂きたい。フランス社会党の大統領が率先してそれをやることで、55年体制の夢からいまだ覚めない日本の化石知識人にも多少は刺激になるだろう。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2013年5月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。