金曜日に最終回を迎えた、一般用医薬品のインターネットネット販売に関するルール作りを行う検討会。一部メディアでは、「結論先送り」と報じられ、またネット推進派は不満を表明し、議論が十分に進まなかったとの印象が残ったが、果たしてそうだったのか。
この検討会の委員として、限りなく「中立」の立場から参加した身として言わせてもらうと、決してそんなことはない。
そもそも薬剤師会、医師会、チェーンドラッグストア協会、薬害被害者の会など規制賛成派と、ネット推進側が、一つのテーブルについて、最終的なルールにつ いて「合意」に達するわけがない。規制を主張する利益団体は全面解禁に合意する理由・インセンティブが何一つないし、最高裁判決を勝ち取ったネット推進側 にも妥協する理由は何一つない。
それでは成果が無かったのかというと決してそんなことはなく、「ネットはアブナイ」という漠然とした当初の議論からは、かなり話が進み、論点を明確にすることができたと思う。
本検討会の最終報告書案を丁寧に読みながら、成果を整理してみよう。
成果1:最高裁の判決を踏まえて、新たな規制を設けるにしても、憲法22条1項の職業選択の自由との関係で、かなり厳しい制約を受けることが確認された。
これは当たり前のことであるが、検討会の初めの方では医師会の先生が「憲法よりも国民の安全の方が大切だ」といった趣旨の発言をしていて驚いた。医学部で憲法は学ばれなかったのだろうか。安全はもちろん大事だが、かといって無制約に規制をしていいわけではない。
本規制は国民の健康や安全を守るという消極目的の規制である以上、
- 「ネットはアブナイ」などの観念上の想定では足りず、立法事実が必要
- 規制に必要性・合理性があること
- より緩やかな規制手段では同じ目的が達成できないこと
といった厳格な合理性の基準が該当することが確認された。これによって、将来のルール作りについても、明確なフレームワークができたことになる。
成果2:対面販売ではできるがネット販売では困難ことは「使用者本人に対する目視・匂い・接触の情報収集」だけであり、それ以外は大きな問題はないことが確認された
まず、薬の購入者(使用者)とやり取りするべき情報としては9つあり、そのうち以下の6つはネット等で問題なく収集できるとされた。
- 使用者の基本情報(年齢、性別、体重等)
- 服用履歴、アレルギー・副作用歴
- 妊婦・授乳婦の別
- 併用薬・健康食品(飲み合わせなど)
- 服用薬の効果や副作用(使用者本人が自覚しているもの)
- 病状の基本情報(使用者が自己申告できる事項。発生部位、履歴、症状の時間、治療状況等)
残りの3つのうち、7・8についてはネットで難しいとされたが、薬を買いに来た人が使用者本人でなければ、収集できないことが確認された。現状では薬品の代理購入を認めているため、これを理由にネット販売を禁止する理由とはならない。9については漠然としているため重要性は低い。
- 症状の性質、状態等のうち、専門家が目視のみ確認できるもの(症状の外見や状態等)
- 症状の性質、状態等のうち、専門家が嗅いだり、接触することでのみ確認できるもの(口臭、体臭、症状の状態等)
- 購入者の挙動(購入者と使用者が異なる場合がある) (以上、p.13)
7についてはケンコーコムが画像等を送信することで実現できると主張していたので、報告書に意見として盛り込んでもらう必要がある(後藤さんへの備忘録)。
いずれにせよ、以上のロジックからすれば、対面でどうしても販売しなければいけないものは、
- 匂いや接触しない限り安全を確保することができないと合理的に判断される品目に限定され(そんなものあるのか?)
- かつ、それらについては代理購入を禁止すること、
になる。
これでは範囲はかなり限定されたし、ネット販売を部分的にも禁止することに対して極めて大きな制約となるだろう。漠然とした不安論から、ここまで具体的に論理的に詰めたことの成果は大きいと考える。
成果3:対面販売の不十分な点も、ネット販売のメリットも、きちんと確認された
対面で説明する場合であっても、「重要な事項であっても真剣に聞かれないおそれがある」「情報提供の有無やその内容については、別途記録することが必要」ことが確認されている。
加えて、以下の点も指摘された。
「店頭における対面販売についても、職能団体が作成した手引き等がある中、書面での情報提供義務が守られていないのではないか、画一的な情報提供だけに止まっているのではないか、購入者からの十分な情報を集めていないのではないか、といった指摘もあり、関係団体による指導は啓発の徹底など、現状を早急に改善する取組等が求められる」(p.26)
これは消費者の一般感覚に近いポイントだろう。
ネットについて不十分な点は色々掲げられているが、一方で、ポジティブな点もいくつも挙げられている:
(ネットによる情報提供は)「専門家と購入者側との柔軟なやり取りが難しい場合がある一方、一般用医薬品の販売における情報収集・提供のプロセスや内容について、均質化(標準化)、ヒューマンエラーの低減が可能」(p.16)
「購入履歴を容易に記録し、必要に応じて購入後に購入者に連絡を取ることが可能・・・提供された情報(メール等)を、購入者が読んだかどうかをWEB画面 上でチェックさせることが可能であり、また、購入者側は自らのペースで提供された情報を読み、さらに、後からメールを読み返し、確認することも可能」(p.17)
これもネット批判一辺倒だった過去の議論に比べて、大きな前進だろう。
成果4:具体的な安全確保のための方策のポイントが13個、整理された
一番キモとなる「第1類」の医薬品についてはほとんど両論併記で終わっているのだが、ネット販売を禁止すべきということは書かれていない。第1類についてはリスクが高いことを認めた上で、薬剤師の判断により慎重に販売されるべき、という結論。いいかえれば、丁寧に取り扱うのであれば、ネット販売でも問題ないということだ。
「リスクを可能な限り低減する観点から、診療に基づき使用される医療用に準じた形で、使用者に関する最大限の情報が収集され、適切に情報提供され、副作用が生じたときなどにも相談しやすい体制の下で、専門家たる薬剤師の判断により慎重に販売されること等が求められる。」(p.18)
これはネット上でも実現可能である。情報収集は成果②の通り、情報提供については「メール以外に店頭での対面、電話等を併せて用意すること」と書かれているが、これくらいは、顧客が求めた場合の対応として、準備すべきだろう。
以上を受けて、安全性確保するための具体的な方策として、以下の13のポイントについて、対面販売と比較した上でネット販売で留意すべき点が整理された。これで十分具体的なルールが作成できたと、私は考えるのですが。
- 許可を取得して販売実体のある薬局+薬剤師が行うこと。許可証もサイト内に表示する。
- 使用者に関する情報収集を行う(成果2参照)。
- 専門家が常駐し、免許証などをサイト内に表示する。
- 必要な情報を提供する。求められるのであれば対面、電話等を併せて用意する。
- 相談があった場合には適切に応答する(質問されたら答えるまでは商品を発送しない)。
- 必要と判断した場合はお医者さんにかかることを勧奨する。
- 多量購入、頻繁な購入を防止可能とする(ネットはやりやすい)。
- 商品はリスク区分ごとにサイトに表示する。
- 相談がある場合の連絡先と時間をサイトに記入する。
- 発送の品質管理をきちんと行う(当たり前)。
- 一連のプロセスに関与する専門家の氏名、連絡先、連絡可能な時間をサイトに表示する。
- 特定の品目については使用目的を確認するなど、適正使用を促す。
- 個人情報を適切に管理する。
現状の薬事法、そして行政による安全確認の実施体制を前提とすると、
- 店舗として認可され実体を有している薬局が、
- 薬剤師が積極的にかかわり安全面を確保した上でネット販売を行う、
というたてつけを求めることは、やむを得ないだろう。
成果5:偽造医薬品・偽販売サイトへの対応など、安全面での対策が整理された
これらも議論の当初は、「ネットは偽薬が出回ってアブナイから禁止すべきだ」という主張が強くなされていた。しかし、今回はこの問題は合法の薬販売についてと分けて議論すべきことが理解・合意された上で、対策についていい議論をすることができ、ネット規制推進派・反対派双方の合意のもと、明確に報告書でもまとめられた。
かくして、11回にわたる一般用医薬品のネット販売に関するルール作りの検討会は、大いなる成果を上げたと私は考えている。
最後の結語の部分では、「更なる詰めの検討を要する点は多い。これらの点については、必要に応じて専門家による検討の場を設置し、詳細な検討を行うことが望ましい」と、厚労省がドラフトしていたのだが、削除してもらった。
これ以上、専門家で集まって議論すべきこと、いや、議論することで進展を見せることはほとんどない。決まらないことは、政治決着しかない。報告書の上記のエッセンスを大切に守りつつ、早く法整備に急いで欲しい。
編集部より:このブログは岩瀬大輔氏の「生命保険 立ち上げ日誌」2013年6月2日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方は岩瀬氏の公式ブログをご覧ください。