厚生労働省は、基金制度の将来についての社会的不安をばら撒くことで、基金内部から自壊していくことを狙っている。事情をよく理解しない企業の経営者にとっては、厚生労働省の暴走の真意は理解できず、ただ将来についての不安をもつのが自然だ。できるだけ早く解散をしておいたほうが得なのではないかと思う経営者が増えてもおかしくはない。ここが、厚生労働省の狙いなのだ。
基金が任意に解散すれば、厚生労働省は全く責任を負わずに済む。ところが、基金を強制的に止めさせるためには、厚生労働省は、解散命令でも出すしかない。しかし、それは、受給権の侵害を考えれば、訴訟が起きる可能性も大きく、相当に勇気のいることである。厚生労働省にして、それだけの責任をとることができるのなら、最初から責任逃れのための基金制度の廃止へ奔走することもない。
基金の任意解散を意図的に誘発するような厚生労働省による出鱈目と無責任が許されていいはずはない。これは、行政庁の行為としては、実に卑劣な奸計であり、正しい行政のあり方を守るためにも、国民として徹底的に糾弾していかなければならない。基金は決して任意に解散の道を選んではならないのだ。
基金の内部からの自壊を防ぐためには、丁寧な説明によって、設立母体になっている業界団体の支持と経営者の理解を取り付けるしかない。逆に、業界団体の支持が得られない基金は、残念ながら、存立の基盤が失われているのだ。
そして、国民一般の理解を得ることだ。そのためには、厚生年金基金では、完全積立を前提とし、厳格な積立水準規制のもとで、民間部門の創意工夫と経営努力が活かされてきたこと、ゆえに厚生年金本体に対して相対的優位があること、安倍政権の基本政策(成長資本確保、安定雇用政策、官から民)との関連で基金廃止の矛盾を訴えること、そして何よりも、厚生労働省の不当、卑劣、横暴なやり方を告発していくことなど、より大きな社会的文脈のなかで、基金の意義を訴えていくことが必要なのだ。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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