新たなIT戦略「『世界最先端IT国家創造』宣言」に対する意見を、情報通信政策フォーラム(ICPF)電子行政研究会を代表して提出した。意見の概要は下のとおりである。
意見で強調したのは、21世紀に通用するIT戦略が必要で、20世紀の残渣では価値がないということである。一例を挙げよう。20世紀には、利用者にあるレベルのITリテラシーを求めていた。一方、今、市場で受け入れられているスマートフォンやタブレットは、提供者側がアクセシビリティとユーザビリティに配慮した結果、どんな利用者も抵抗なく簡単に利用できるようになっている。IT戦略では再び電子行政を強調しているが、利用者の目線で使い勝手を徹底的に高めない限り、今までと同じ失敗を繰り返す恐れがある。
ICPFでは6月11日に緊急セミナー「新たなIT戦略を読み解く:電子行政を中心に」を開催し、平井たくや氏(衆議院議員、自由民主党IT戦略特命委員長)、瓜生和久氏(政府IT総合戦略室企画官)、牟田学氏(電子政府コンサルタント)らと討論する。若干の余席があるので、ぜひ、ご参加ください。
電子行政研究会の意見概要
アクセシビリティとユーザビリティを最大限重視しITを提供していくことを、新たなIT戦略の基本理念として明示すべきであり、これは市場での成功と競争力強化にも重要である。
定量的な評価指標を導入し、取り組みの進捗状況や成果を評価するという考え方に賛成するが、同時に、今までの10数年にわたるIT戦略についてできる限り定量的に評価し、教訓とする活動を実施すべきである。
共通番号の導入に際しては、いくつかの地方公共団体を対象に共通番号を活用した行政サービスを試行実施し、その成果を全国展開するといった、スモールスタートが好ましい。
共通番号を健康・医療・介護分野に拡大することを宣言するとともに、医療的緊急時等に個人情報を個人の許可なく利用することについてガイドラインを整備すべきである。
新たなIT製品・サービスを武器にする起業を積極的に促すべきである。技術者教育に偏ることなく、魅力ある製品・サービスを発想する力や起業マインドを醸成する教育こそが求められる。
本戦略の主要部分は各府省から提案されたIT関連施策の集合体との感が拭えない。真に戦略的かつ総合的なIT利活用施策を進めるために、特に重要なIT戦略課題を扱う「IT戦略21世紀枠」を新たに設け、若い世代に推進を委ねるべきである。
障害となる規制・制度の見直しや関係各省の連携といった宣言は聞き飽きた。本戦略の着実な推進を求める。
山田肇 -東洋大学経済学部-