『統計学が最強の学問である』風に言ってみた。単なるゴロ合わせだが、全くのデタラメでもない。
急成長で、業界を代表する高収益・優良企業となったメーカーがある。主な立役者は以下の顔触れ。
「最強の研究開発部」──斬新な発想と先見性で、次々とユーザーが欲しがる魅力的な商品を生み出す。
「最強の製造部」────常に改善を繰り返し、品質、生産性、コストとも最高水準の製品を供給する。
「最強の営業部」────市場を先取りしたマーケティング活動を展開し、確実に販売目標をクリアする。
「最強の経理部」────独自の管理会計思想を発案し、企業成長に必要な資金政策も万全である。
いずれ劣らぬ猛者揃い。どの部門も業界トップレベルであることは間違いない。
この会社を一代で優良企業に育て上げた創業経営者は、「はたして、どの部門の貢献度がナンバー1であっただろうか」と考えてみた。どの部門も期待以上の実績を上げており、なかなか答えが出ない。しばらく考えた末、ある部門の存在が思い浮かんだ。まだ社員100名にも満たない中小企業の頃に「何といっても人が大事」と思ってつくった人事部だ。
その後、会社規模の拡大に必要な人材を大量に採用し、各部門に配属するまでの初期教育を行い、会社に定着するよう人事制度や福利厚生施策を考え、階層ごとに必要な研修を実施してきた。現在の各部門の責任者クラスも、人事部が発足してから採用・育成されてきた人材たちだ。
あの時、思い切って人事部をつくっていなければ、今の会社はなかったかもしれない。「やっぱり我が社において、最強の部門は人事部ではないか」創業経営者は、そんな思いを強くするようになった。
と、こんな企業物語を書き始めてみたが、このあとの面白そうな展開も深みも生まれそうにないので、この辺りで止めておく。
人事コンサルタントという職業柄、雇い主はたいてい経営者か人事部門だ。そのため人事部門の肩を持ちたいが、実際には”評判の人事部”は少ない。どちらかというと、社内の評価は芳しくない。採用活動以外は、何をやっている部署か分かりづらい。また、そもそも中小企業においては、総務部や管理部の業務の一部として存在するだけで、人事部がない会社の方が一般的である。
しかしながら、見方を変えれば、この架空の会社のように、人事部が最強の部門になり得ると思う。確かに企業収益を生み出すのは、営業や開発、製造だが、全社を見渡し各部門に必要な人材の供給や育成を行うことができる。経済の停滞局面では、さまざまな人件費コントロールを行うことで、利益を捻出することも可能だ。
問題は、当の人事部メンバーの多くが、自分たちをそのように思っていない点にある。デフレが長引き、経営から人件費削減の指令を受け、採用者減、非正規社員への転換、賃金水準や教育予算の抑制、行きつく先は人員削減と、本来社員のための部門のはずが、手足を縛られた状態。これで、部門としての自尊心や充実感を持てという方が無理かもしれないが。
でも、あえて言いたい。
「人事部が最強の部門である」は言い過ぎでも、「人事部は最強の部門になることができる」ということを。
『2014年卒マイナビ学生就職モニター調査 5月の活動状況』によると、
人事担当者の印象の良し悪しで選考に進むかどうか決めた企業の有無は、印象が良くて選考に進んだことが「ある」学生は61.8%、悪くて進まなかったことが「ある」学生は48.6%となり、それぞれ前年よりも10%以上多かった。人事担当者が学生の動向に対して与える影響が少なくない様子が垣間見えた。
という調査結果となっている。
人事部が、将来の社長を採用するのである。
山口 俊一
株式会社新経営サービス
人事戦略研究所 所長
人事コンサルタント 山口俊一の “視点”