ラジオは衰退産業である。しかし、社会的な必要性がなくなったわけではない。固定通信・移動通信・ネットがすべて切断された東日本大震災の際には、被災地に新しい生活情報を伝達する手段としてラジオが利用された。大規模災害に備えるため情報伝達手段は複数用意されるべきであって、ラジオもそのような情報伝達手段の一つである。
ラジオがラジオとして機能するためには、送信側と受信側がセットで揃っていなければならない。大規模災害時に急に電源を入れても動作は保証できないから、送信側は日常的に電波を出し続ける必要がある(毎日夕刻に防災無線から子供の帰宅を促す放送が流れるのは、実は防災無線の動作試験なのだ。)しかし、広告収入が減少する一方のラジオが、日常的に放送を続けられるだろうか。受信側にも問題がある。日常的に聴取していなければ、いざというときに受信機を探しても見つからない恐れがある。電池が切れているかもしれない。
総務省は放送ネットワークの強靱化に関する検討会を組織し、ラジオの未来について議論している。検討会は中間とりまとめの段階にあるが、その内容には疑問がある。
ビルの影響で都会ではAM受信がむずかしく、(潜在的な)聴取者数が減少の傾向にある。そこで、FMでのサイマル放送を行うという方針が書かれている。広告出稿量を維持するための、この方針はわかりやすいのだが、今のFM帯はすでに一杯なのでVHF・TV放送の跡地を利用するという。そうなると、新しくFM受信機を購入しなければ聴取できないのだが、果たして現実性はあるのだろうか。
2011年時点で、258局のコミュニティFMが存在する。中間とりまとめは「災害放送をはじめとする地域情報のさらなる充実を図るため、市町村に密着したコミュニティ放送の一層の普及を図るべきである。」としているが、地域経済が疲弊する中で新たな開局は期待でいるだろうか。中間とりまとめは自治体との連携強化をうたうが、自治体から営業資金を引き出せるのだろうか。
このように批判は容易なのだが、正直、代替案がなかなか出てこない。
ICPFでは春季セミナーシリーズとして、第1回「新聞の未来」、第2回「J-POPの未来」に続き、情報通信学会シンポジウムを協賛し「テレビの未来」について議論を深めてきた。第3回(7月19日)は、検討会の事務局を務める総務省の茅野民夫氏に「ラジオネットワークの強靭化について」についてお話しいただくことにした。皆様多数のご来場をお待ちします。
山田肇 -東洋大学経済学部-