参院選は与党が圧勝して、民主以外は1桁になるという。衆議院に続いてここまで野党が弱体化すると、審議拒否や国対などの伝統的な抵抗手段もきかなくなり、55年体制以上の自民独裁体制になりそうだ。野党もますます野党化し、共産党が躍進するなど現実逃避の傾向が強まっている。
田原総一朗氏によると、野党のアベノミクス批判は「現実を避け、夢を見たい」症候群で、その共通点は「反グローバリズム」だという。そういう気分をあからさまに表明しているのが、内田樹氏の「脱グローバリズム宣言」である。
国民国家解体の動きはもうだいぶ前から始まっていました。医療・教育・行政・司法に対する「改革」の動きがそれです。[・・・]この20年ほどの「構造改革・規制緩和」の流れというのは、こういう国民国家が「弱者」のために担保してきた諸制度を「無駄づかい」で非効率的だと誹るものでした。できるだけ民営化して、それで金が儲かるシステムに設計し直せという要求がなされました。その要求に応えられない制度は「市場のニーズ」がないのであるから、淘汰されるべきだ、と。
医療や教育は国内の制度改革であって「国民国家」を解体するものではなく、「グローバリズム」とも無関係だ。「無駄づかい」は淘汰されるどころか、ますます肥大化し、公的年金の積み立て不足は800兆円にものぼるのだが、内田氏のような団塊世代にはそんなことはどうでもいいのだろう。自分たちの既得権をおかすものには「グローバリズム」というレッテルを貼って「国民国家を解体する無政府主義」と罵倒すればいいのだ。
これはマーケティングとしては正解だ。この記事には1684もの「いいね!」がつき、彼の本もよく売れているらしい。彼は、田原氏もいうように「夢を売っている」のだ。自分たちは決して責任を負わないという前提で、コストを考えないで「弱者」の味方を演じる万年野党は、かつては40年ぐらいビジネスとして成り立った。
しかしアベノミクスが「グローバリズム」だという批判は、二重に間違っている。安倍政権そのものがグローバル化を「デフレ脱却」という非問題にすりかえているからだ。日本の物価が低い最大の原因は賃下げであり、その原因は新興国との国際競争の激化だ。これは世界的に起こっている歴史的な現実であり、それを批判しても拒否しても、逆転させることはできない。
日本が競争に生き残るには、法人税を軽減し、雇用規制を緩和して人材の流動化をはかるなどの改革が必要であり、破綻している財政を再建するには負担増は避けられない。しかし安倍政権は、そういうコスト負担については一切語らず、日銀が輪転機をぐるぐる回してお札を印刷すれば、インフレによってすべての問題は解決するという夢を売っている。
いいかえれば、与野党ともに「夢見る万年野党」になっているのだ。しかし55年体制の社会党には高度成長という無駄づかいの財源があったが、今の日本には1000兆円を超える借金しかない。それを支えているのは「日本人はまじめだから、そのうち何とかするだろう」という信頼感だけだが、それが崩れたとき夢は覚める。どのみち助からないのなら、なるべく長く国民に夢を見せるのも政治家の仕事かもしれないが…