参議院選挙の投票日は、来週の日曜日に迫りましたが、なんか盛り上がりませんね。自民・公明の圧勝が予想されて、ワンサイドゲームになりそうだからです。選管では、みなさんに投票を呼びかけていますが、そもそも選挙で投票する意味ってあるんでしょうか?
国政選挙の当選ラインは、東京選挙区では50万票ともいわれています。そうすると、あなたの投票で当落が決まる確率は1/50万。あなたが当選した候補によって得られるメリットをX、投票するコストをYとすると、XがYの50万倍以上ないと投票することは合理的ではありません。つまり棄権することが合理的な行動なのです。
だから民意を正確に反映させるためには、投票を義務にして違反者には罰金などのペナルティを課す必要がある、という考え方もありますが、実際にそういう制度を採用している国はオーストラリアやベルギーなど、ごくわずかありません。これは投票は有権者の権利であって義務ではないという考え方からでしょう。
もう一つの批判は逆に、税金を払ってない人まで選挙権をもっているのはおかしいという考え方です。国政に参加するのは、納税によって国政のコストを負担している人に限るべきで、株式会社のように納税額に応じて議決権を与えるべきだ、という意見です。日本でも戦前はこれに近い制度でしたが、不公平だという人が多いのでやめることになりました。
そんなわけで、ほとんどの国では1人1票の普通選挙になっているのですが、これは上に書いたように不合理な制度で、他人の投票にただ乗りすることが合理的になってしまいます。政治に影響を与えるためにもっとも効果的な方法は、投票することではなく、当選した議員に政治的圧力をかけることなのです。
これは賄賂のような露骨な買収である必要はありません。たとえば政治家を「TPPに賛成したら、次の選挙ではうちの農協の組合員はあなたに入れない」と脅して票で政策を買うことは合法です。アメリカのように「自由」な選挙制度にすると、もっと露骨にカネで政策を買うロビー団体がたくさんできて激しい競争をします。
このとき強いのは、必ずしもメンバーの多いロビー団体ではありません。たとえば農協の組合員は人口の1%未満だし、創価学会の会員は実数で数百万人でしょうが、必ず投票に行き、近所の人にも呼びかけるので強い力をもちます。他方、人口の半分以上を占めるサラリーマンは、いくら数が多くてもまとまらないので力になりません。
こういうロビー団体で皮肉なのは、仕事がなくなって暇な業界ほど団結力が強く政治活動に熱心になるという法則です。たとえば薬のネット販売でIT業界と薬剤師会が闘いましたが、IT業界の人は数百万人いても忙しくて政治運動をする暇がないのに対して、薬剤師会は10万人しかいませんが仕事が暇なので、議員会館を回って政治家を接待できます。
チャーチルは「民主政治は最悪だが、他の政治形態よりましだ」といいましたが、こう考えるとそうともいいきれません。だから「ネット選挙で世の中が変わる」なんて幻想で、一番いいのは政治家に「景気対策」やら「デフレ脱却」をしてもらおうと思わないで、なるべく政治が人々の生活に口を出さないようにする規制改革なのです。