選挙期間は空腹の心配がない --- 長谷川 良

アゴラ

風が吹けば桶屋が儲かる、と同じ論理でいうならば、選挙が始まり、政治家が街に乗り出して選挙戦を繰り広げると空腹の心配はなくなる。そのことを日本の読者にも理解できるように説明する。

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▲オーストリア社会民主党のメーデー集会で演説するファイマン首相(社民党党首)(2013年5月1日、社民党提供)


日本は目下、参議院選挙の終盤戦に突入し、市内は街宣車で名前を叫ぶ候補者の声が響き渡っていることだろう。オーストリアでもいよいよ9月末、5年ぶりに議会選挙が実施される。新党も生まれ、前回以上に賑やかな選挙戦となることは間違いない。

当方は今からワクワクしてる。アルプスの小国・オーストリアの選挙戦は日本のようなに街宣車の上から連呼する候補者を見つけるのは難しいが、主要な地下鉄駅前には候補者のパンフレットを有権者に配る応援団が待っている。ここまでは多分、日本の選挙風景と大きくは変わらないだろう。

違いは以下だ。

オーストリアの政党は選挙戦に入ると有権者に小さな贈物を配る。もちろん、高価なものではないが、路上で小さなボールペンやリンゴをもらうと、「ああ、また選挙シーズンが到来した」という実感を抱く有権者が少なくない。それほど、選挙戦と贈物はオーストリアの有権者の心に深く繋がっているのだ。

贈物はボールペンやリンゴだけではない。朝、目が醒め、アパート玄関の戸を開けると、キッフェルン(三日月型のパン)が袋に入ってぶら下っている。キッフェルンの袋に中には候補者の写真と党のパンフレットが入っているが、キッフェルンを見つけた有権者は普通そんなものに目をくれず、隣人の戸にもぶら下っているキッフィエルンの袋が気になるものだ。

朝食用のパンが注文していないのに配達されるのだ。もちろん、選挙期間中、毎日とはいわないが、選挙戦が終盤に入り、候補者が激しい票争いを展開すれば、キッフェルンが届く回数も当然増えてくる、といった感じだ。

キッフェルンとコーヒーで軽い朝食を済ました後、駅前に行くと2、3の政党関係者が既にパンフレットとボールペンを通行人に配っている。多くの有権者はボールペンを貰い、パンフレットは駅のゴミ箱にそっと捨てる。だから、ゴミ箱はパンフレットで一杯だ。

仕事を終え、帰途に向かう夕方、野党の政党がテントを張り、そこで党首が演説している。仕事で疲れた体を癒すためにテントに入ると、若い女性がソーセージとビールを運んでくれる。椅子に座って党首の話に耳を傾けながらソーセージにセンフをつけて食べる。お腹が空いている場合、もう1本ソーセージを貰うため入口まで足を運ぶ若者もいる。

テントを出ると、与党の政党関係者がボールペンとボンボンを配っている。選挙期間中は、帰宅するまで2、3の政党の集会にこまめに顔を出す有権者が少なくない。

夜のニュースが終わると、報道番組が始まり、政党関係者が討論会をする頃、労働者の多くは疲れて眠たくなり、TVのスイッチを消す。このようにして選挙期間の一日が暮れていく。読者の皆さんは「選挙期間は空腹の心配がない」という当コラムのタイトルの意味を理解されたことだろう。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年7月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。