米中央情報局(CIA)元技術助手のエドワード・スノーデン氏(30)がロシアに政治亡命を申請したことで6月23日から続いてきた同氏の亡命先騒動は一休みする。そこで少し早いがズノーデン氏の亡命騒動が明らかにした事実を忘れないためにまとめておきたい。
ズノーデン氏はモスクワの空港で20カ国以上に亡命申請を打診したが、いずれも「本人が入国してから申請しなければならない」という亡命申請規定を理由にやんわりと断られた。モスクワ訪問後、帰途に向かったボリビアのエボ・モラレス大統領が搭乗した大統領専用機がフランス、スペイン、ポルトガル、イタリアの4か国から上空通過を拒否されるというハプニングが生じた。4か国は米国からズノーデン氏がボリビア大統領機に搭乗している可能性があるという情報を入手、米国側の要請を受けボリビア大統領専用機の上空通過を禁止するという前代未聞の決定を下した。日頃、米国に厳しい姿勢を示す欧州諸国も米国の強い要請を受ければ、それを拒否できないということが改めて明らかになった。
一方、ズノーデン氏の亡命申請を受けたロシアのプーチン大統領は「米国を批判する情報暴露など米国の国益を損害する行為をしないという条件ならば亡命を受け入れる意向がある」と示唆していたが、ここにきて「米国との関係はズノーデン問題より重要だ」と発言するなど、かなり揺れている。駐国連のロシア人記者は「半分は本音、半分は虚言だ」という。同記者によると、「ズノーデン氏を米国に引き渡したならば、ロシアン国民から“米国の圧力に屈した弱い大統領”という刻印を押され、そのイメージは永遠に同氏に付きまとうだろう。だから、プーチン氏はズノーデン氏を米国に引き渡すことは、絶対できない」という。
上半身を裸になって強さをアピールするのがトレードマークのプーチン大統領をしてこの有様だ。米国を批判する南米3国もズノーデン氏がロシアに留まってくれてホッとしているかもしれない。ズノーデン氏を受け入れたならば、米国の厳しい経済制裁を回避できなくなるからだ。国民受けを狙った反米発言とリアル政治はまったく異なる。
さて、米国はズノーデン氏騒動で何が明らかになったか。米国民の50%以上は依然、「安全を守るためには個人の自由の制限も致し方がない」という立場だ。2001年9月11日の米国内多発テロを体験した米国国民はそのショックを払拭できないでいる。
米国はテロ対策という名目で国内ばかりか、外国の同盟国でも情報を収集していたことが明らかになった。同盟国からは当然、米国への批判の声が高まっている。それに対して、「これまで50件以上のテロ計画を暴露し、壊滅した」とその実績を上げ弁明している。
米国の情報収取活動に苦情と修正を要求するためにメルケル独首相から米国に派遣されたハンス・フリードリヒ内相は米国家安全保障局(NSA)本部を視察、関係者と会談したが、米国にドイツ国民の不満を伝え、欧州での情報収集活動を停止を要求するどころが、「米国のお蔭でドイツ国内のテロ計画は過去、制止されたことがある」と述べ、米国の情報活動に一定の理解と評価を下しているほどだ。
ところで、独週刊誌シュピーゲルのクラウス・ブリンクボイマー編集局次長は「米国の狂気」というタイトルのコラムの中で厳しい米国批判を展開させている。
「2005年から今日までテロ事件のために死去した米国民は年平均23人だ。その大部分が外国で犠牲となっている。米国では,はしごから落ちて死亡する数はその15倍だ。米国は2001年以降、これまで8兆ドルをテロ対策に投資してきた。一方、米国内では年間3万人以上の国民が銃の犠牲となっている。子供の犠牲者数は他の先進諸国の平均13倍だ。銃事件が生じる度に大統領や議会は米国の銃保持問題を話題に挙げるが、事件の熱が冷めれば、元の木阿弥だ。また、米国は地球規模で大きな影響を与えている環境汚染問題に対してもその解決に取り組む熱意が欠如している」
ズノーデン事件は米国が圧倒的な政治力と軍事力を有していることを端的に示した。その一方、米国はテロ後遺症に悩み、世界が直面している多くの諸問題に対して大国としてのリーダーショップを発揮できないでいる。
「米国は病気だ」といった独週刊誌編集次長の発言は、「欧州知識人の典型的な反米主義」と一蹴するには余りにも深刻な問題を指摘している、と言わざるを得ない。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年7月23日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。